Eine kleine Spielzeugkiste

とりあえず、マンガのレビューや二次小説を書いていきたいと思います。

【amazonドラマ はぴまり】あらすじ episode2

【重要なお知らせ】

ブログ開設して早々に恐縮ですが、ブログをお引越しさせていただきます。

http://ohisama-himawari.seesaa.net/

今後は上記のブログにて記事を書かせていただきますのでよろしくお願いいたしますm(__)m

(なお、こちらのブログで書いた過去の記事もすべて引っ越ししております)

 

 

 

Amazonオリジナルドラマ「はぴまり ~Happy Marriage!?~」のあらすじを小説風にまとめてみました。

全12話をがんばって書きおこしていきます!

 

はぴまり episode2「初めてのデート」

 

区役所へ出向いた北斗と千和

「お願いします」と、北斗が窓口で婚姻届を差し出す。

職員が内容を確認している間、千和が北斗を見つめるが、北斗はなんの感慨もなさそうな顔をしている。

「おめでとうございます」と言われ、千和だけが作り笑いを浮かべて頭を下げた。

 

区役所を出ると、北斗が千和の方を見た。

「…ん?」ちょっと嬉しそうに微笑む千和

見つめ返した千和に、北斗は一言「じゃあな」と残し、足早に去ろうとする。

「えっ!それだけ!?」と千和が慌てて呼び止める。

「なんにもなし!?」

「何期待してんだよ」

「あの…だから!お茶とか、デートとか…?」

期待して北斗を見つめる千和の前で、「アホらし…」と北斗がため息をついた。

「恋人同士じゃないんだから、そんなの時間の無駄だろ?」

北斗は千和を置いて歩き出す。

「時間の無駄って…」北斗の言いぐさに呆れる千和

「忘れてた」と、立ち止まった北斗が千和の方へ引き返し、「これ」と千和スマホを手渡した。

「…なに、これ」

「専用の携帯電話。俺の番号しか入ってないから、なんかあったらかけろ」

戸惑いつつも少し嬉しそうに千和が受け取ると、北斗は踵を返して去って行った。

北斗の背中を見送ると、「はぁ…」と千和はため息をついた。

自分が着てきた花柄のワンピースを見つめる。

「せっかく頑張っておしゃれしてきたのに…意味ないじゃん」

 

ーーー

今朝も質素な小鳥遊家の食卓。

「結婚式、お金持ちってさ、よく外国でやるよねぇ」

納豆をかき混ぜながら嬉しそうに千和の父がつぶやく。

時間を気にしながら、父の言葉を受け流す千和

「ハワイとか多いのかな…ハワイかぁ~!ちゃんとした服持ってないんだよねぇ~。尾びれみたいなのが付いたさ、フロックコートっていうの?あ、でもハワイなんだからアロハでもいいのかぁ」

妄想が広がる父は、こたつの中からハワイのガイドブックを取り出して広げる。

「なんか、ロコモコって料理が有名なの?お父さん知らないんだけどさぁ~プププ、ロコモコって変な名前だよなぁ…」

「何ちゃっかりガイドブックなんて買ってんの?」千和が呆れて言う。

「だって楽しみじゃない?結婚式とかさ、新婚旅行とか」

ギョッとする千和

「新婚旅行までついてくる気!?」

「いやいや、そんな気はないけどさ、でもお金持ちって気前がいいから、お父様もどうぞ~なんて言ったりするよね、わりあい」

「そんなこと言わないでしょ、普通。

とにかく、まだ何も決まってないし、この先どうなるかわかんないんだから、あんまり期待しないで。お金持ちになったつもりでギャンブルにつぎこむとか、絶っ対ダメだからね!!」

「どうなるかわからないって…もう籍も入れたんだしさぁ。そんなことないでしょ~。あっほら見て見て!ダイヤの指輪輝いてる!」

「籍は入れたけど…まだなんかいろいろ難関がありそうな気がする…」

千和はそうつぶやくと食器を片付けるために台所へ行った。

「こんなの会社にしていけないよ…」そう言いながら指輪を外すと、千和はまじまじと指輪を見つめた。

 

千和が電気店へ出勤すると、皆があわただしく動いている。

「小鳥遊さん早く手伝って!配送のトラックが事故っちゃって、倉庫から出してお店に並べないと商品が足りなくなっちゃう!」とお局の及川さん。

「はいっ!」千和も慌てて重い商品を並べ始めた。

 

いつものようにまじめに仕事をしている千和の横で、同僚の女子たちは適当に仕事をこなしている。
千和!今夜合コンあるんだけど出る?」
「えっ?」
「マナミが頑張ってくれてさぁ、今日の男子は粒ぞろいなんだって!税理士とか、弁護士とか」
「へぇー」
「この会社で何年働いても先がないしさぁ、早めにいい男ゲットして結婚しないと!緑さんみたいになるの嫌だしさ」
お局パワー全開で周囲に指示を出している及川を遠目に見て、千和も苦笑いが出てしまう。
「ね!行くよね!?」
「あ、ちょっと待って。私はいいや」
「はぁ?前は合コンっていうとノリノリだったじゃん」
「今はなんかそういうモードじゃないっていうか…どっちかっていうと仕事モードっていうか!」
今までと違う千和のノリに、同僚たちが疑いの目を向ける。
「ん~?まさか彼氏できたとかじゃないよねぇ?」
「えっ…」
「ちょっとぉ、やめてよ~あっという間に寿退社とか」
「ないないないない!それはないから!」
千和たちの会話が少し気になる様子の八神。
千和がせっせと働いていると、「働き者ですね~、千和さん」と八神が話しかけてきた。
「他の人が適当にやってるときも、千和さんは動いてる」
「ああ…同じことなら体動かしてる方が気持ちいいでしょ?」
そんな千和を見つめながら八神が微笑む。
「おもしろいなあ。千和さんて」
「おもしろい?」きょとんとする千和
「…でも、すぐに楽しようとする人より、千和さんみたいな人の方が幸せつかむ気がする」
「そぉ?」
「僕は好きです…千和さんみたいな人」
ドキッとして千和が八神を見ると、八神はじっと千和を見つめた後、ニコッと笑って立ち去った。
「みたいな人、だよね…」
八神の後ろ姿を見ながら、千和は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「あたしのこと好きって言ったんじゃないんだよね…」
千和はふと指輪を外した左手の薬指を見つめる。
「八神くん…私を誤解してるよ。私は楽するために結婚しようとしているんだから…」

「お~い!女子のみ・ん・な~!」店長が変なノリで現れた。嫌な予感がする。
「今夜だれか空いてる奴いない?」
同僚の女子たちは視線をそらす。
「私たちは今夜ちょっと約束がぁ…」
コソコソとその場を去ろうとした千和だが、そこを同僚に見つかってしまった。
千和、空いてるよね?」
逃げきれなくなった千和が「な、なんですか?」と尋ねると、店長が駆け寄ってきた。
「ちょうどいいや!スミッツホテルの社長の接待があるんだよ。あの社長、若い女の子に目がないから」
「だったら女の子のいるお店にお連れしたらいいじゃないですか」
「いやぁ、高~くつくだろ?」
「じゃあホステスがわりをやれってことですか?」
千和がつっかかると、店長が訳知り顔で近づいてきた。
「及川君から聞いたよぉ…君、夜のバイト、してたんだって?」
ドキッとして、千和は及川をうらめしそうに見る。
「きみ、今月の売り上げ、全っ然ノルマに達してないよねぇ!?その分得意分野で貢献しないと~!」
「…はい…」
「よし!はりきっていこー!」
「~~~っ はぁいっ!!」
やけくそ気味に返事をする千和なのだった。

その夜、安っぽいパブで取引先の社長が上機嫌にカラオケを歌っている。
千和と店長、及川が一生懸命盛り上げる。
「どうぞ。新しいおしぼりです」
千和が差し出すと、「気が利くねぇ~」と嬉しそうに言った社長が「ここに座りなさい!」と自分の隣に千和を呼び寄せた。
嫌がる千和に、「いけ!」とジェスチャーで命令する店長。
仕方なく「はい、じゃあお言葉に甘えて…」と千和が座ろうとすると、社長はソファの座面に自分の手をおいて、ソファに腰を下ろそうとした千和のお尻を触った。
「きゃっ!!」と千和が飛び上がった。
「あれぇ?」ととぼける社長。
千和はげんなり。


さらにはデュエットまでさせられたが、社長は千和の肩にに手を回すと必要以上に接近してくる。
我慢の限界寸前の千和を、店長と及川が必死になだめる。
嫌々歌う千和だったが、肩に回された社長の手がするすると背中を下りてお尻をなでられたとき、とうとう千和は耐えきれなくなった。
「いやぁぁぁ!!」
思わず社長を突き飛ばすと、千和は自分のリュックを抱えて店を飛び出した。
「小鳥遊君、待ちなさい!」帰ろうとする千和を追いかけてきた店長が「社長に謝りなさい!」と千和を引き止める。
「謝りません…!謝る理由ないですから!」
「謝らないと、ク、クビだぞ!!」と店長が脅す。
千和は店長を振り払って向き直り、「クビで結構です!!」と言い放った。
「そんな軽はずみなこと言っていいのか!? お前みたいなの、何の資格もないのにそう簡単に雇ってくれる会社なんかないぞ!」
あまりの言いように千和も激昂する。
「いいんです!!大丈夫なんです!私、結婚するんです!!年収5000万の人と!」
目を見張る店長たちに背中を向けると、千和はスタスタと歩き始めた。

(言ってやった…!とうとう言ってやった!!

一度言ってみたかったんだ。辞めてやるって!)


「んあー!」と叫んで、千和は勝利のガッツポーズをする。
そのまま通りを突き進む千和の目に、ブティックのショーウインドウに飾られた純白のウエディングドレスが飛び込んできた。
思わず足を止めて、ウエディングドレスに見入る千和
結婚式で自分がこの美しいドレスを身にまとい、北斗に指輪をはめてもらうシーンを思い浮かべてうっとりする。
妄想の中の北斗は千和に優しく微笑みかけ、千和も嬉しそうに微笑み返す。
沢山の人に祝福されて、幸せそうに寄り添う二人…。
妄想をふくらませていた千和はふと思う。
「そうよ…私、結婚するんだもん。結婚式を夢見て何が悪いの?」
千和はポケットから携帯を取り出すと、飾られたウエディングドレスに向けてカメラを構えた。


写真を撮っていると、突然「千和!?」と声をかけられた。
振り向くと、合コンに行っていたマナミ達がいる。
「何してんの?そんなとこで」と尋ねられて、
「そっ、そっちはどうだったの!?合コン、行ったんでしょ?」

千和は慌てて聞き返した。
「いやもう、それがハズレばっかり!一人はデブ、一人はハゲ、一人はチビのメガネのおサル顔でさ。いくら年収高くても無理でしょ」
「そうかもね~!」とごまかしながら千和が携帯を隠そうとすると、不審に思ったマナミが千和の携帯をサッと取り上げた。
ウエディングドレスの写真と、目の前に飾られたドレスを見比べてきょとんとする同僚二人。
千和、もしかして…!?」「えっ!?結婚!?」
携帯を奪い返し、「あ、あのね…!」と言いかけた千和の肩に誰かがポンと手をかけた。
振り向くと、それは北斗だった。
「あぁー!この人…!」テレビで見知っている北斗が目の前に現れて、同僚たちは呆然としている。
千和に冷ややかな視線を送る北斗を横に、千和は姿勢を正した。
「…紹介します!この人が私の…」
言いかけた千和の足を、北斗が力いっぱい踏んづけた。


「う…いっ…たぁ~いぃ…!!」
「この前君に売りつけられたライスクッカー、ちょっと調子悪いんだけど見に来てくれないか?」
「いや…そういうのはメーカーのサポートセンターに言ってよ!ていうか売りつけてないし!!」
「オフィスすぐそこだから、早く来てよ」
北斗はそう言うと千和の手をつかみ、強引に引っ張っていった。

同僚が見えなくなったところで、千和は北斗の手をふりほどいた。
「なんなんですか!」
「おまえ今、あの二人に俺と結婚してるって言おうとしただろ」
「は!?何が悪いの!?だって事実でしょーが!」
「俺は今世の中的に“独身のイケメンエリート”で売り出し中なんだよ。もう少しこの波にのって稼ぎたい。
だから、お前みたいのと結婚してるってバレたら…イメージが崩れるだろ?」
「…はあ!?」
「元キャバ嬢!借金苦!貧乏!」
「マスコミはそういうのすぐ嗅ぎつけるんだよ。」
そこまで言われてしまうと千和はぐうの音も出ない。
「…ねえ!なんで私がここにいるってわかったの!?」
はたと気がついて千和が尋ねた。
「この前渡した携帯電話、GPSがついているんだ」
「…!! げぇ~~~…」
「勝手な行動されちゃ困るんだよ。

…あ、それと、明日一日空けとけ。いろいろ予定つまってるから」
「…いろいろって?」
説明するのも面倒くさいという表情を露骨にしながら「来ればわかるよ」と北斗が言った。


---
翌朝。こたつの上で競輪新聞を熱心に見入る父親に、千和が声をかけた。
「お父さん!賭け事に使っていいお金は一日千円までだよ!わかってるよね?」
「わかってま~す…」
自分の部屋に戻り、千和はクローゼットを開ける。
先日北斗と婚姻届を出しに行ったときに着ていった花柄のワンピースを手に取り、ため息をつく。
「おしゃれなんかしたって意味ないんだよねぇ…どうせ」

結局千和はトレーナーに破けたジーンズといういで立ちで北斗を待った。
北斗の白いBMWが借家の前の砂利道を入ってきた。
シックなジャケットを羽織った北斗は、車から降りて千和の恰好に愕然とする。
「…ひどい恰好だなぁ。なんだそれ?」
「いいでしょ!デートじゃないんだから」
「……」無言の北斗に、千和は少しだけ期待を込めて尋ねる。
「それとも…デートなの?」
北斗はやれやれという顔をしながらも、わずかにほほ笑んでため息をついた。
千和の顔が期待の色に染まる。

次の瞬間。
「ちょ、ちょっと、なによ~!」
荷物を詰め込むように千和を車に押し込むと、北斗は表参道へ向かって車を走らせた。

高級ブティックの店内で、北斗は女性ものの服を次々と手にとり、千和にあてて見定めていく。
パンプスも吟味して、北斗自らが履かせてくれる。
ネックレスも、千和の後ろから北斗が手をのばし、千和のロングヘアを肩に回しながら見立ててくれる。
そんな夢のようなデートに、千和の顔はほころんだ。
見立ててもらったものをすべて身に着け、ヘアメイクやメイクもちゃんとして千和が北斗の前に現れた。
見違える美しさに、北斗も思わず立ち上がる。
「…どう?」心配そうに尋ねる千和に、北斗が優しく微笑んだ。
「よく似合ってるよ」
初めて北斗に褒められて、千和も嬉しさを隠せない。
そんな千和の横を「さあ行くぞ」とそっけなく通り抜ける北斗に少しがっかりする千和
これを着て一体どこへ行くんだろう---

二人の行先は北斗の実家、間宮邸だった。
お仕えの人に通された部屋に北斗と千和が足を踏み入れると、一族の面々がそろっていた。

北斗の叔父であり間宮家の次男、間宮理(さとる)とその妻・佐織
理の息子である間宮孝之とその妻・美佳。
同じく北斗の叔父にあたる間宮家の三男・正嗣とその妻・理恵子。
北斗の大叔母、間宮麗子。
そして、一番奥に座っているのが先日千和と会った北斗の祖父、間宮林蔵だった。
重苦しい空気が流れる中、北斗が口を開いた。
「お久しぶりです」
「座りなさい」祖父・林蔵が促した。

妾腹の北斗を親戚の連中が冷ややかに見ている空気は千和にも明らかに伝わった。

「本当に久しぶりねえ」と冷たく理恵子が言う。

「大人になったのねぇ、北斗」と麗子。

「最後に会ったのはまだ貴方が高校生のときよ。学校で色々問題起こして、お父様にずいぶんご苦労をかけてたけど」

「どこにいたんだ?今まで」と正嗣がニヤニヤしながら尋ねる。

「アメリカに留学していました。ニューヨークの大学で経営を学んだ後、M&Fカンパニーで二年間コンサルタントとして働きました。その後はワシントンのビジネススクールでMBAを取得しました」

「問題児が箔をつけるためにアメリカに留学するってのはよくある話だが、アメリカで学位を取ったところで日本で通用するとは限らない」従兄弟にあたる孝之が冷ややかな眼差しを北斗に向けた。

「北斗君は経営コンサルティングの会社をおこして日本で成功しているよ。君の名前は仲間内でよく耳にする。また会えて嬉しいよ」

叔父の理だけは北斗に温かい言葉をかけてくれた。

「そうねぇ。主人ともよく話してたの。あの北斗君が立派になったものねって」と佐織が言葉を添える。

「…どうも」北斗が軽く頭を下げた。

 

「…にしても、挨拶が少し遅いんじゃないかしら。自分勝手に家を飛び出したんだから、帰国したら真っ先に飛んできて不在を詫びるべきでしょう」と、とげのある言い方で麗子がなじる。

孝之の妻美佳は北斗と初対面になる。「家を出てからどのくらい経つんですか?」と尋ねてきた。

「15年です」

「ずいぶん長いことフラフラしてたのねぇ」と嫌味たっぷりの理恵子。

「…企業人として実績を積んでから皆さんと再会したかったので」

また冷笑まじりの空気が流れた。

「麗子叔母さん」と正嗣が語りかける。

「北斗君の立場だと、身ひとつで我々の前に現れるのは恥ずかしいんですよ。その気持ちをわかってあげないと」

「ああ、それもそうねぇ。外腹ですものねぇ」

クスクス笑い声が漏れる。千和がちらりと横を見ると、北斗は表情を変えずに黙って聞いている。

「本来ならこの席に来られるような人間じゃない」と孝之。

またしても冷笑が聞こえてくる。

「…北斗は私が呼んだんだ」林蔵がやっと口を開いた。

「そうでしたね、おじいさま。すみません」孝之が頭を下げる。

 

「隣にいる方はどなた?」美佳が再び尋ねた。

自分に視線が向けられて千和はビクッとする。

「知ってる?」「さあ、知らん」と正嗣夫妻。

「…実は、ここにいる千和と結婚することになりまして」

驚く一同。

「今日はそのお披露目もかねて参った次第です」

千和は緊張しながらも精一杯の笑顔で挨拶した。

「は、初めまして。小鳥遊…違った、千和です。よろしくお願いします」

沈黙が流れる中、林蔵が切り出した。

「この結婚を機に、北斗を一族に迎え入れる。株の半分と繊維部門の社長を任せることにした」

「なんですって!?」正嗣夫妻が慌てた。

「ちょっと待ってくださいよ!勝手に家を出てって勝手に帰ってきた男にそこまでしてやることはないでしょう!?」

「そうですよ!優遇しすぎですよ」と孝之も加勢する。

「間宮繊維は元々長男の誠嗣(せいじ)の管轄だった。北斗は誠嗣の息子だ。誠嗣は体調を崩して入院している。戻ってくるまでのつなぎにちょうどいい」と林蔵が言った。

「…父は、入院してるんですか」

自分の父親が入院していることを知らなかった様子の北斗に、千和は少し驚いた。

「そうだ。知らなかったのか?」と林蔵も驚く。

「病気ですか?なんの病気です」

「それはお前が病院に行って確かめてくればいい」との林蔵の言葉に、北斗は

「御免蒙ります」と冷たく返事をした。

「父も、私の見舞いなんて喜ばないでしょう」

「これだからもう、誠嗣さんも苦労するわねぇ。たった一人の息子がこんな態度じゃ。最低の暮らしから引き上げてもらったっていうのに!」理恵子がとげとげしく言い放った。

「そうだな。確かに」

麗子が続いて口を開く。「誠嗣がこの子を引き取りたいって言い出した時あたくしは反対したのよ。育ちが育ちだし、どうせ間宮の家には馴染めない。何せ母親があれだから…」

「あれって、どういう意味ですか?大叔母様」

「水商売の女」

「ククク…」孝之が笑いだした。

「しかし、誠嗣さんも北斗君も、二代そろって水商売がお好きなんですね」

「なんのことです」

「北斗君が結婚すると聞いて、ちょっと調べさせてもらたんですよ、お相手のこと」

俯いていた千和がハッと顔を上げる。

「そしたらつい最近まで高円寺のキャバクラにお勤めだったってことがわかりました」

「言われてみれば確かにそんな感じねぇ」麗子が嬉しそうに声をあげる。

「だったら北斗ちゃんにはお似合いなんじゃないかしら。男の人は母に似た人を求めるっていうでしょ?育った環境も似てるってことだし」

「ハハハ!血は争えないってことだねぇ」

「そうねぇ。本当に血は争えない」

罵詈雑言がヒートアップしていく。

「私、誠嗣さんはあの女に騙されてたんじゃないかと思うの。本人を前にして言いにくいけど、北斗ちゃんだってほんとに誠嗣さんの種かどうかわからないもの」

「だからあたくしも反対だったの。この間宮家に妾の産んだ子供を入れるなんて」

麗子の冷たい視線は林蔵にも向けられた。

北斗もさすがに険しい表情になる。

ずっと黙って聞いていた千和が突然立ち上がった。

「あの…さっきからなんか、話の中身がくだらなすぎるんですけど!」

千和の発言に驚いて一同が息をのむ。

「みなさん家族なんですよね?家族っていうのは助け合うもんなんじゃないんですか?」

北斗が千和のことを見上げたが、千和は構わずに続ける。

「なのに、みんなでよってたかって北斗さんの足を引っ張って…醜いっていうか…下品ですよ、これって…!

私は確かにキャバクラで働いてました。でもそのことと、彼のお母さんは関係ないんで、お母さんの悪口を言うのはやめてください!…彼の悪口も。

それに、水商売水商売って馬鹿にするけど…やりたくない仕事だって誰かのためにやらなきゃならないことだってあるんですよ!そういうの、皆さんみたいなお金持ちにはわかんないだろうけど…」

誰かのためにやらなきゃいけない…。北斗のお母さんは北斗のために。千和父親のために。

 

「…お口が達者ね!」と理恵子。

「おじいさま。この女を外に叩き出してください」と孝之。

頭にきた千和は「言われなくても外に出ます!さようなら!」とおじぎをすると、つかつかと部屋を出て行った。

千和の背中を見送ると、北斗は軽くため息をついて自分も立ち上がり、「失礼します」と後を追うように退出した。

その様子を見て、林蔵は静かに満足そうな笑みを浮かべていたーーー

 

足早に帰ろうとする千和を北斗が追いかける。

「待てよ!どこ行くんだよ」千和の腕を北斗がつかむ。

「席に戻ったら!?私は帰る!」千和は北斗の手をふりほどいて言った。

「じゃあ送ってくよ」

「電車で帰るからいい!」

北斗はそんな千和をじっと見つめる。

「あなたの家のことがよーくわかった!あの人達に認めてもらうために、あなたはあの偉そうな会長の言いなりになって私と結婚したんだよね!?

…でも私には無理だよ。世界が違いすぎる!」

それを聞いて、北斗はため息をついた。

「…今日一緒にこの服とか靴とか選んでもらったときね、…ちょっとだけ嬉しかった。うきうきした。ちょっとだけね…

男の人に服を選んでもらって、似合うねーとか言ってもらって、そういうの初めてだったから」

素直に自分の気持ちを話す千和を見つめる北斗の眼差しは優しい。

「でもそれって…私のためじゃない。

あの人達に認めてもらうために、あの人達に非難されないように、恥ずかしくない恰好で私を出すためだったんだよね!?」

「……」

「だったら私より良い人がいるよ。私にはつとまらない」

北斗の表情が曇り、そっと視線を落とす。

千和はネックレスと結婚指輪を外すと、北斗の前に差し出した。

「…服はクリーニングして返すから」

ためらいつつ北斗が千和からアクセサリーを受け取ると、千和は無言で北斗の前から去っていった。

庭に立ち尽くしたまま、北斗は返されたアクセサリーに目をやり、また一つため息をついた。

 

食卓に一人残る林蔵の元へ、麗子が歩み寄ってきた。

「北斗もとんだ娘を連れて来たものね」

「…あの娘を見て、誰かに似てると思わなかったか?」

「さあ」

「…木綿子だよ」

驚いた麗子が林蔵を見返す。

「あの娘は木綿子の孫なんだ」

「本当なの!?」

「私があの娘を北斗にすすめたんだ」

「…何を考えているの!?貴方は」

「…誠嗣をのぞいて、うちの跡継ぎは皆頼りない。北斗にも同じテーブルに着く権利を与えてやってもいいと思ったんだ。…まあ、うちの連中は黙っちゃいないだろうが。

お手並み拝見だ」

「……」

 

---

その夜の小鳥遊家。

テレビを観ながらこたつでカップラーメンをすする父。

「ただいまー」と千和の声が聞こえてきた。

千和が家に入ると、こたつの上に食べ物や日用品がちらばっていた。

「またパチンコー!?」

「今日はもうバカ当たり!5000円が35000円になったよぉ」と嬉しそうに父が言う。

「一日1000円以上使うなって言ったのに!その5000円どっから調達したのよ!?」

千和の問い詰めを無視してテレビに見入る父。

嫌な予感がして千和は部屋に駆け戻り、クローゼットを開けた。

あのお出かけ用の花柄のワンピースがなくなっているーーー

「私の勝負ワンピがない!!」

「リサイクルに持っていったら6500円だったよ」と父。

「信じらんない!!なんで勝手にそういうことすんのよ!」

父親に殴りかからんばかりに詰め寄る千和

「いいじゃなーい。細かいこと気にしない。結婚するんでしょ、千和ちゃん。

旦那さんにもっといいもの買ってもらえばいいよぉ」へらへらと笑う父を見下ろしながら、

「結婚はなくなったから」と千和が言った。

「えぇ~冗談でしょ?」

なおもへらへら笑う父。

「今日きっぱり断ってきたから!…だから明日から、ご飯はまた一食一膳ね」

「えぇ~冗談でしょ~~~」

ふと、父は千和が上品なスーツに身を包んでいることに気づいた。

「ああっ!それ、千和ちゃん、見たことない服だねぇ!高そうだねぇ」

「ダメ…この服は絶対にダメ!!」

千和父親をブロックするかのように部屋の扉を勢いよく閉めた。

 

ーーー

翌朝。トボトボと電器店に出勤した千和

気づいた同僚が「あっ、来たんだけど」と声をあげる。

きまり悪そうに千和が入っていくと、店長、及川、八神が千和を見つめる。

店長の前に来ると、「おはようございます!」と千和は深々と頭を下げた。

「あれ?あれれれ?小鳥遊君、辞めるって…」

「この前は大事な取引先のお客様を相手にお見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでした!」

千和は再び深くおじぎした。

「結婚するんじゃなかったの…?」と及川が尋ねる。

「あれは…あの場限りの、口から出まかせです」

「じゃあ、辞めるってのも出まかせってこと…?」

「…はい。本っ当に馬鹿だったと思っています」

「あのねえ…!あの後私と店長で先方に手をついて謝ったのよ!

あんな好き勝手やってタダで済むと思ってんの!?」

カウンターを叩いて及川が激昂する。

「まままま…いいじゃない!ね!?」慌てて店長が間に割って入る。

「小鳥遊君も反省しているようだし、そういうことなら引き続き頑張ってもらおうよ。ね!?」

「早速だけど、今日残業頼めるかな~!?」

千和は笑顔で「はい!頑張ります!」と答えた。

 

午後10時過ぎ。店の床を一人モップで拭く千和

「は~、終わったぁ…」

腰をぽんぽんと叩きながら家路を歩いていると、先日写真を撮ったウエディングドレスの前を通りかかった。

ライトに照らされて光り輝いているドレスを千和がじっと見つめていたら、突然照明が消えて真っ暗になった。

自分の結婚と重なり、千和はただただうつむいたーーー

 

ーーー

一方の北斗は、会社を移るための荷物の整理をしている。

ふと思い出して引き出しを開け、北斗は一枚の写真を取り出した。

そこにはサッカーボールを持った笑顔の少年と、少年の肩に手をかける母親の、仲睦まじい親子が写っていた。

北斗が写真をじっと見つめていると、

「結婚は…とりやめですか?」

女性秘書がコーヒーをそっとデスクに置いた。

「うん…」

写真を見つめる北斗の脳裏に、過去の出来事が思い出された。

走り寄る車。驚いて飛び出す母親。血を流して倒れた母親を必死で揺する幼い自分…。

母親との過去を改めて思い出した北斗の耳に、先日の千和の声がよみがえる。

”水商売水商売って馬鹿にするけど…やりたくない仕事だって誰かのためにやらなきゃならないことだってあるんですよ!”

北斗は一瞬何かを決意したような顔をした。

荷物整理を途中にして出て行こうとする北斗に

「どこに行かれるんですか?」と秘書が声をかける。

「……」

黙ってオフィスを出て行く北斗を、秘書は心配そうな表情で見送った。

 

ーーー

千和が帰宅すると、いつものように父がこたつでうたた寝をしていた。

「お父さん。言ったじゃん、こたつで寝てると風邪ひくよって」

起きない父の肩にそっと上着をかける。

「…ごめんね。また貧乏になっちゃった…でも、いいよね…?なんとか生きていけるよね…」

父の肩に頬を寄せながら千和がつぶやいた。

 

ドンドン!

扉を叩く音が聞こえた。

ハッとする千和父親も乱暴なノックの音に目を覚ます。

「ああっ…千和ちゃん!ごめん!ごめんっ!千和ちゃん…」と、うろたえる父。

「ええっ!?また!?」

 

千和がおそるおそるドアを開ける。

そこに立っていたのは北斗だった。

「ちょっといいか?」と飄々とドアの隙間から顔を出す。

「…なんですか?」と戸惑う千和

北斗が家に上がると、借金取りから隠れようとこたつに潜り込む父親がいた。

北斗がさっとひざまづく。

「…お義父様ですか?」

「…えっ!?」驚いて父親がこたつから顔を出す。

改まった態度で千和父親に向かい、北斗が丁寧に言う。

「ご挨拶が遅れまして、誠に申し訳ございませんでした」

状況が飲み込めずきょとんとする父を前に北斗が言葉を続けた。

「お嬢様を…僕にください!」

 

驚く千和

「はあ…ああっ!あなたが、年収5000万の!?」

「お父さんっ!」父親の失言を千和が慌てて遮る。

「…はい。経営コンサルティングの会社を経営している間宮北斗です」

「はぁ…そうかそうか!いいですよぉ、もちろん」

「私から結婚を断ったの!!

私は一言も…イエスなんて言ってない!!」

千和は北斗を睨みつけ、ぷいっと横を向いた。

北斗が千和の方に改めて膝を向ける。

「この前は…申し訳なかった」

これまでにない北斗の態度に、驚いて北斗を見つめる千和

「お前の言うとおり、俺の親戚は馬鹿ばっかだ。でも…俺はあの馬鹿どもを相手に闘っていかなきゃならない」

北斗は千和をまっすぐに見つめてこう言った。

「味方がほしいんだ」

「…味方?」

「お前は俺の身内の前で恥をかいてくれた。…だから俺も、恥をしのんで頭を下げる。

お願いだ…俺と結婚してくれ」

最初のプロポーズとは明らかに違う、真剣な眼差し。

自分に頭を下げる北斗を見て、千和は戸惑う。

北斗は胸元にしまったハンカチを取り出すと、千和の手を取り、ハンカチに包んであった結婚指輪を再び千和の薬指にはめた。

北斗の真剣な思いを感じ、千和は無言で指輪を受け入れた。

「おめでとぉ~!よかったねぇ、千和ちゃん」

能天気に拍手する父に、北斗が言う。

「お嬢様を、今夜お借りできますか?」

「ああ!どうぞどうぞ、連れてっちゃってくださいぃ」

父親に微笑みかけると、北斗は千和の手を取ったまま立ち上がり、千和を見つめて微笑んだ。

千和も、まっすぐな北斗の瞳を見つめ返して微笑んだ。

 

ーーー

千和の手をひき、自宅マンションへ戻った北斗。

どぎまぎする千和を見て、北斗は微笑む。

「どうぞ」

玄関を上がり、部屋に入ると北斗は照明のスイッチを入れた。

おずおずと後から入ってきた千和が、リビングを見て唖然とした。

「なにこれ…汚なっ!!」

すべてにおいてスマートなイケメン独身社長の自宅は、服やゴミが散乱する汚部屋だったのだ!

あんぐりと口を上げて立ちすくむ千和

「しょうがねえだろ、忙しいんだから…」と言い訳をする北斗。

「ま、気にすんな」

「気にするなって言われても…」

思わず片づけを始めた千和に近寄ると、北斗は後ろからぎゅっと千和を抱きしめた。

驚いて固まった千和の肩を抱いて向き合わせると、じっと見つめながら北斗は顔を近づける。

ビクッとして後ずさる千和に、北斗は笑顔で近づく。

北斗が一歩近づけば、千和が一歩後ずさる。

窓際の逃げられない場所まで追い込まれ、千和はとうとう北斗につかまえられた。

北斗の優しい瞳に引き込まれて動けない千和の唇に、北斗はゆっくり自分の唇を近づけたーーー

 

(episode3へ続く)

 

 

*.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**

円城寺マキ先生の原作コミックス「はぴまり ~Happy Marriage!?~」(全10巻)はドラマとだいぶストーリーが異なりますが、北斗と千和が本当の夫婦になるまでの過程を楽しく描いていておすすめです!

 

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【amazonドラマ はぴまり】あらすじ episode1

【重要なお知らせ】

ブログ開設して早々に恐縮ですが、ブログをお引越しさせていただきます。

http://ohisama-himawari.seesaa.net/

今後は上記のブログにて記事を書かせていただきますのでよろしくお願いいたしますm(__)m

(なお、こちらのブログで書いた過去の記事もすべて引っ越ししております)

 

 

Amazonオリジナルドラマ「はぴまり ~Happy Marriage!?~」のあらすじを小説風にまとめてみました。

全12話をがんばって書きおこしていきます!

 

はぴまり episode1「突然のプロポーズ」

 

都内を貫く某道路。

黒塗りの外車の中で、スーツに身を包んだ男が後部座席にもたれかかっている。

「今日は空いてますね。あと10分ほどで到着します」

運転手が彼にそう伝える。

「ああ…」

彼は自分の腕時計に目をやると、少し気だるそうに返事をした。

 

ーーー

一方、こちらも都内某所。

「いらっしゃいませー!」明るい声が青空に響く。

「でんかのヤマグチ、今からタイムセールが始まりますよ〜!」

メガホンを片手に赤いベストを着た小鳥遊(たかなし)千和が、電気店の店頭で笑顔で呼び込みをしている。

 

ーーー

その頃、先ほどの車はとある豪邸の前に停車した。

後部座席から降りた男が屋敷の前にたたずむ。

30歳を少し過ぎたくらいだろうか。

上質なスーツが嫌味にならない端正な顔立ちに少し憂いを秘めながら、彼は意を決したように屋敷の中へ入っていった。

 

彼がドアをノックすると、「はい…」としゃがれた声で返事がきた。

「失礼します」と部屋に入ると、彼は書斎の奥に座る老人に声をかけた。

「ご無沙汰しております。北斗です」

「ああ…よく来た」

老人はかけていた眼鏡を外すと口元にわずかな笑みをたたえて彼を迎えた。

 

ーーー

その日の夜。

キャバクラで千和はいつものようにバイトをしていた。

ねちっこい客もなんとか笑顔でやり過ごし、疲れた顔で家路につく。

タクシーを拾おうとしたキャバクラの同僚が千和に気づいて声をかける。

「チワちゃん、タクシー譲ろっか?」

「あたし…  近いんで、歩いて帰ります」

「近いって…  西荻窪でしょ?」

「でも、歩けるんで!」

そう笑顔で答える千和に、同僚は冷ややかな目を向けながらタクシーに乗り込んだ。

タクシーを見送ると、千和は持っていたビニール袋からスニーカーを取り出した。

パンプスからそれに履き替えると、ネオンが明るい歓楽街を疲れた足取りで歩き出した。

 

「ただいまー」

千和西荻窪の借家に戻ると、父親がこたつに入って座ったまま居眠りをしている。

「もぉー、またこたつで寝てんの?風邪ひくよ。おーきーて!」

抱き起こした千和が、競輪新聞を見つけた。

「えっ…またギャンブル⁉︎」

嫌な予感がして、慌てて食器棚の引き出しを開ける。

「ない…‼︎

ガス代…水道代…家賃…  ない……‼︎」

「明日払おうと思ってた家賃、どうすんのよ‼︎ お父さんっ‼︎」

千和が詰め寄ると、「俺に言われてもぉ〜…」とダメ親父がバツ悪そうに言う。

「だって、使ったのお父さんでしょ⁉︎」

「でも稼ぐのは千和ちゃんでしょ〜?」

何を言ってもヘラヘラと笑うだけの父親に、千和は脱力するしかなかった。

 

翌日ーーー

「前借りもいいけど、これで最後にしてくださいよ」

キャバクラの店長から渋々と給料袋を渡され、千和は「はい!」と返事をしながら受け取った。

千和を気に入ったのか、店にはまた昨日のねちっこい客が来ている。

お給料は前借りしてしまったし、逃げたくても逃げられない状況だから仕方ない。

「よし!」と自分に気合いを入れて、千和は笑顔でホールに出ていった。

 

そんな千和を少し離れた客席からじっと見つめる男がいた。

昨日のスーツの男だった。

彼は接客する千和を観察するかのように冷めた目で見つめた後、深いため息をついた。

 

洗面所に逃げていた千和がホールに戻ると、あのねちっこい客が千和を待ち受けていた。

「チワちゅぁぁん、僕もトイレ行ってたんだ♡」

肩を抱いて千和を連れて行こうとする客の腕を、突然あのスーツの男がつかんで引き離した。

驚いて千和が振り向くと、自分を見つめる見慣れない男が立っている。

彼は無言のまま、今度は呆然とする千和の腕をつかみ強引に客席に座らせた。

「…初めての、お客様…ですよね?ご指名ですか?」

状況が飲み込めないながらも、笑顔で取り繕う千和に、その男は冷ややかに言い放った。

「お前は犬か」

「…は?」

さすがの千和も笑顔が引きつる。

「客にやりたいようにやられて、文句も言わずにホイホイついていって。

チワじゃなくて…チワワだな」

初対面の男に突然そんなことを言われたら誰だってムッとする。

「…なんですか…?」

「プライドがあるなら、こんな仕事今すぐやめろ」

無礼きわまりない男の言動に、怒りを抑えるのがやっとの千和

「あ〜、あれですか?

女の子のいるお店で、こんな仕事ためにならないからやめろとかってお説教するのがご趣味の…」

笑顔を引きつらせながら精一杯の嫌味を言う。

「そうしたいんですけどね〜

私には私の事情が…」

「事情って言っても、要は金だろ?」

「そ、そうですけど⁉︎」

すると男はスーツの胸元に手を入れて札束を取り出し、千和の目の前にポンと無造作に置いた。

「じゃ、これでどうだ。これをお前にやるって言ったら気が変わるだろ?」

傍若無人すぎる男の態度に、千和の堪忍袋の緒もさすがに切れた。

千和はすっと立ち上がると、目の前にあったグラスを手に持ち、その男の顔に水割りをぶっかけた。

びしょびょに濡れた男は黙って座っている。

「お、おい‼︎なにをやっているんだ⁉︎」

店長が慌てて駆け寄ってきた。

「すぐにお客様に謝りなさい!」

千和の怒りは収まらない。

「あたしのこと、何にも知らないくせに上からモノ言うなっ!

私にだってプライドくらいあるよ!

プライドだってあるし、守りたいものだって!」

その言葉に、男は顔を上げた。

「お前の守りたいものって…なんだ?」

突然尋ねられて、千和の頭に浮かんだのはあのダメ親父だったけれど…

「か…家族…とか?」

千和が引きつりながらも答えると、男は話は終わったとばかりに、

「何か拭くもんないかな…」と言い出した。

千和がハンドバッグから自分のハンカチを取り出して男に投げつける。

男は黙ってそれを受け取って顔を拭った。

 

ブラックカードで支払いを済ませようとする男に、店長が慌てて「お代は結構です!本当にすみませんでした!」とぺこぺこ頭を下げる。

謝りもせずぶ然と突っ立っている千和を一瞥すると、男は無言のまま店を出て行った。

当然のことながら、千和はその日でキャバクラをクビになった。

前借りしたお給料も取り上げられて。

 

翌朝。

千和は昨晩の出来事を引きずりながら、でんかのヤマグチの朝礼に出ていた。

朝礼では、店長が新しく入ってきたバイトの男の子を紹介している。

「こちら今日から入る、バイトの八神裕くん」

「目黒大学3年の八神裕です」

爽やかな笑顔の好青年に、千和の同僚の女子達は早くも目をつけたようだ。

「かわい〜♡」

「目黒大の学生ならきっといいトコ就職するし♡」

けれど、バイトをクビになった千和はそれどころではない。

仕事に打ち込む千和の横で、ディスプレイ用のテレビ画面を見ていた同僚が声を上げた。

「ね、知ってる?この人。最近よくテレビに出てるよね」

思わず千和が振り返ると、他の同僚も駆け寄ってきた。

「あー!あたしも気になってたぁ!

えと、たしか、まみや、ほ…」

「間宮北斗。アメリカで実業の勉強して、日本で経営コンサルタントの会社起こしたんだって」

テレビ画面に映った男性を見て、千和は目を丸くした。

「あぁっ…‼︎」

昨日のあの男だーーー‼︎

 

「何?その反応、千和も目つけてたの?」

「年収5000万だって。こんな人と結婚できたら人生上がりだよね〜」

(年収5000万…どうりで札束持ってるわけだーーー)

 

「あなた達何やってるの?」お局OLの及川が冷たく睨みをきかし、同僚達はこそこそと持ち場へ戻った。

「小鳥遊さん、店長が呼んでるわよ」

「あ、はい!」

千和も慌てて事務室へ向かった。

 

「失礼します」

千和が事務室へ入ると、背中を向けていた来客がこちらを振り向いた。

(あっ…!)

思わず千和が立ちすくむ。

それは紛れもなく、昨日千和が水割りをぶっかけた嫌な客、間宮北斗だった。

「小鳥遊くん、こちらヴァリアス・コンサルティングの間宮北斗さん。

君の落とし物をわざわざ届けにきてくださったんだよ〜

これ、君の?」

店長が、昨晩千和が彼に投げつけたハンカチをひらひらさせる。

あんぐり口を開けたまま、千和はゆっくり頷いた。

この男がわざわざハンカチを届けに来た意図がわからず混乱する千和だったが、慌てて彼の元へ駆け寄った。

「昨日は…申し訳ありませんでした‼︎」

千和は頭を下げた。

「お怒りはごもっともです…

昨日のクリーニング代、いえ衣装代お支払いしますので、なんとかお許しいただけないでしょうか?」

昨日の勢いとは正反対に、ひたすら低姿勢で謝る千和

「なんなの君ィ⁉︎

うちの小鳥遊が何か粗相しましたでしょうか?」

割って入る店長に、間宮北斗の方も昨日とは別人のような笑顔で答えた。

「いや、そうじゃないんですよ。

…ちょっと彼女のことお借りできますか?」

「どうぞどうぞ!」

困惑する千和だったが、結局外で間宮北斗と話をすることになった。

 

喫茶店で向かい合って座る千和と間宮北斗。

黙ってコーヒーを飲む彼に、戸惑いながら千和が話を切り出した。

「あのう…なんなんでしょうか?

会社、クビになりたくないんですよ。生活かかってますから。

お金…ないんですから…」

「知ってるよ」

コーヒーカップを置いた彼が言う。

「そうですか…」

彼の意図がわからず、どうすればいいのかわからない。

すると彼、間宮北斗は偉そうな態度で千和を見つめながら、ゆっくりと言い放った。

「俺と」

「結婚すればいい」

間宮北斗の言葉に、千和再び呆然。

「…はい?」

「俺と、結婚しろ。

そうすれば問題は全部解決する」

彼の意図がますますわからなくなる千和

「いや…いきなり、結婚っていうのもなんだけど…

それ以前に"結婚しろ"ってなんですか?  "しろ"って。

そういうときは"結婚してくれ"って言うんじゃないんですか?ふつう…」

今度は北斗の方が、わけがわからないと言わんばかりの顔をして言う。

「"してくれ"っていうのは、お願いだろ?

俺はお願いはしない。

この結婚は君にとって有利なことだらけだ。お願いする理由がない」

と、小馬鹿にしたように笑った。

「…話になんない…!」

呆れて席を立ち、店を出ようする千和の背後から北斗が声をかけた。

「昨日の店、クビになったんだろ?

今の勤め先もいつまでもつかな…」

脅しとも取れる北斗の発言に怒りを露わにして千和が振り向くと、涼やかな顔で北斗が続けた。

「あ、お父さん、借金いくらあるんだっけ?」

千和は踵を返して北斗にツカツカと詰め寄った。

「私のこと、脅してるんですか⁉︎」

「違うよ。救いの手を差し伸べているんだ」

そう言いながら、北斗は傍に置いたビジネスバッグから書類のようなものを取り出して千和に渡した。

「これ、俺の健康状態と学歴。それと、うちの会社の業績と過去5年間の収益をまとめてデータにしてある。連絡先も書いてあるから。じゃ」

まるでビジネスの打ち合わせが終わったかのように、間宮北斗は立ちすくむ千和を残して事務的に去っていった。

「なにこれ…」

 

翌朝の小鳥遊家。

お茶碗一杯のご飯ときゅうりの漬物だけの質素すぎる食卓を千和父親が囲んでいる。

「おかわり…」茶碗を差し出す父に、千和が厳しく言い放つ。

「ご飯は一食一膳。今食べたら夜ご飯なしだよ!それでもいい?」

がっかりしながら茶碗を引っ込める父。

父が最後の一枚のきゅうりを食べようと箸を出すと、同じく取ろうとした千和の箸とぶつかった。

けれども、父親思いの千和は「いいよ、食べて」と父親に譲る。

「じゃ、遠慮なく…」と、どこまでも千和に甘えるダメ親父だった。

 

出勤前、千和が銀行に立ち寄って5000円を引き出すと、預金の残高はわずか250円になっていた。

ため息をつく千和の頭に、「救いの手を差し伸べてるんだ」と言った北斗の顔が浮かんでくる。

「年収5000万か…」

昨日突然北斗から提案された結婚の申し出…。

どう考えればいいんだろう。

 

「八神く〜ん、お昼一緒に食べよ♡」

昼休みのヤマグチでは、将来有望な八神と親しくなろうと千和の同僚達が甘い声で彼を誘っている。

「僕、お弁当持ってきてるんで…」

そんなやり取りをお構いなしに弁当を食べ始める千和をチラリと見た八神が、

「ここ、いいですか?」

千和の隣に立って尋ねてきた。

千和の弁当箱には、白米に梅干し、きゅうりの漬物だけが入っている。

「…いいよ…」

お弁当を蓋で隠しながら千和が言うと、

ニコッと人懐っこく笑って席についた八神が「お腹すいた〜」といそいそと弁当を開け始めた。

千和が八神の弁当をチラッと見ると、いろんなおかずが彩りよく詰められている。

「かわいい〜!誰に作ってもらってるの?お母さん?」

「自分です。僕、一人暮らしですから」

「そうなんだぁ、すごいね!料理うまいんだね」

八神ははにかみながらアスパラガスの肉巻きを一つ箸でつまむと、

「食べてから言ってくださいよ。はい」

千和に差し出した。

「いいの?」

「どうぞ」

千和がお弁当箱の蓋を皿がわりに受け取ろうと差し出したとき、梅干しときゅうりだけのお弁当が八神にも見えてしまった。

ハッとする千和に、「シンプルですね」と微笑む八神。

「お返しに何かあげたいんだけど…何にもなくて、ごめんね」

きまり悪そうに千和が言うと、

「それ、もらってもいいですか?」

と八神はきゅうりの漬物を指して言った。

「こんなんでよかったら」

「いただきます」

きゅうりを口に運んだ八神がポリポリと噛みながら「んっ!美味しい!」と声をあげた。

「これ、自分で漬けたんですか?」

はにかみながら千和が頷く。

「へぇーすごいなぁ!家庭的なんですね」

「一応ね」

照れながら千和も八神のおかずを口に入れる。

「こっちも美味しい!ありがとう」

 

「小鳥遊さんて…名前、千和っていうんですよね」

「うん」

「可愛い名前ですね。

千和さんって呼んでもいいですか?」

「いいけど…」

嬉しそうな八神を見て、少しためらいながら千和が切り出した。

「ねえ、…お金のために結婚するのって、アリだと思う?」

「なんですか?それ。玉の輿狙ってるんですか?」

「いやいやいや!

…私ね、そんな、お金持ちになりたいとか思ったことないの。

ただ、普通の生活がしたいだけなのよ。

明日明後日のご飯の心配しないですんで、たまにはお昼休みに評判のランチ食べに行ったりできる…そういう…」

「まあ、今の時代先行き不安ですもんね。老後のこととか、不安なのわかります」

(いや、もうちょっと切羽詰まってるんだけど…)

「でも、玉の輿狙いで合コン行く女子とかどうかと思うし、千和さんは結婚は好きな人とっていうタイプでしょ?」

戸惑う千和

「…そ…そうだね…  よくわかるねぇ、八神くん」

「わかりますよぉ、なんとなく」

純粋な笑顔の八神を前に、千和はそれ以上何も言えなかった。

 

帰宅後。

「ラスイチ、いい?」

夕食のおかずのウインナーを取ろうとする父に、「いいよ」と千和は最後の1個を譲ってあげる。

「じ、じゃあおかわり…は…」

茶碗を差し出す父に「だーめ!」と言いながらも、千和は自分のお茶碗に残っていたご飯を父に差し出した。

棚の上に飾られた亡き母の写真を見つめながら千和が尋ねる。

「ねえ…お母さんは、お父さんの何が良くて結婚したのかなぁ?」

「ねぇ。なんでだろうねぇ」

「だってさぁ、お母さんの人生って、お父さんがギャンブルで作った借金返すために働いてたようなもんじゃない?

他のおばさん達みたいにお洒落したり、習い事したり…何にもなくってさ」

「それはさぁ、惚れちゃったからじゃないかなぁ」

「ガクッ。自分で言うか」

「惚れちゃうとさぁ、人は何でも許せちゃうんだよねぇ」

母の遺影を見つめながら、千和は心を決めたようだった。

 

自分の部屋に戻り、千和は昨日北斗から受け取った書類に書かれた連絡先へ電話した。

「ヴァリアス・コーポレーションです」

女性の声が聞こえてくる。

「間宮北斗ですね。…少々お待ちください」

しばらくすると、あの男の声が聞こえてきた。

「ああ君か」

「この前のプロポーズの返事ですけど…

いや、あれがプロポーズだったらってことですけど…

ノーです‼︎」

「……理由は?」

「私、やっぱり、誰かをちゃんと好きになってから結婚したいんです」

「……」

「失礼します!」

千和は電話を切った。

 

「ふられちゃいましたね」

受話器を置いた北斗に美しい女性が話しかけた。

「…君が優秀な秘書なのは認めるけど、電話の内容を全部親機で聞いてるってのはどうなのかなぁ」

女性はそんな北斗の嫌味は意に介さないといった様子だ。

「社長は女心を知らなさすぎるんですよ。恋は思案の外(ほか)、と申しますけど、ビジネスと恋は違います。

もっと有効なやり方、あるんじゃないですか?」

「……」

 

ーーー

後日。千和が会社で事務処理をしている目の前に、及川緑がドン!と段ボール箱を置いた。

「小鳥遊さん。伝票整理お願い。今・日・中・に!」

「今日中って…これ夜中までかかりますよ⁉︎」

「あなた、夜のバイトがあるからって今まで何べんも残業免除してもらってるんでしょう?これからはその分も頑張ってもらいますから」

「……」

「タイムカードは私が押しときます」

そう言うと及川は千和のタイムカードを抜き出し、退社時刻を早々に印字してしまった。

なすすべもない千和に残されたのは目の前の伝票だけ。

最終バスにも乗り遅れ、ヘトヘトになった千和はやっとのことで家に着くと倒れこんだまま眠ってしまった。

 

翌朝ーーー

千和がふと目を覚ますと、視界に見慣れない男たちが入ってきた。

どう見てもカタギとは思えない男二人が寝転がったままの千和を見下ろしながら

「へぇ~ なかなかいいタマじゃん」「ですね」などとニヤついている。

「わあぁっ!?」

千和が飛び起きると、男たちにおそれおののく父親の姿が目に入った。

「お父さん… なにこれ!?」

「そうね…オレもよくわからないんだけど…」

「バカ言ってんじゃねぇぞコノヤロー!借金踏み倒して逃げようとしたくせによぉ」

「ごめんなさい!ごめんなさい…」

普段から情けない顔をさらにくしゃくしゃにしてうろたえるだけの父。

「まあまあ。いい娘さんじゃないですか。

この娘にソープで働いてもらえれば借金なんてすぐ返せますよぉ~」

ギョッとする千和。さすがの父も目を丸くする「そ、それは…」

父親を睨みつける千和に、男が話しかける。

「お嬢ちゃんごめんな。この人な、うちの店のバカラで200万スッちゃったのよぉ」

「一日で…200万…負けたんですか?」

「あぁ~いやいやいや…ど、どうだったかなぁ~…

なんか入口のドア固められて、逃げられなくてぇ~…」しどろもどろに父が答える。

「まあ、アンタなら200万なんてあっちゅう間に返せるでしょ」

「……」

「よし!じゃあ行こうか」

「ちょっ、ちょっと待って!ねえ!手ェ放してよぉ…っ」

無理矢理連れて行かれそうになった千和が抵抗すると、男はとんでもないことを言い出した。

「そうか。じゃあ、このオッサンに保険金かけて海に沈んでもらってもいいんだけどな」

ビクッとする父。

「これ。保険の書類だ。ハンコ押しな」

無理矢理拇印を押させられそうになる父を見て、千和は激しく動揺する。

ビクビクと震えながら、千和に助けを求める視線をチラチラと送る父を見て、千和はとうとういたたまれなくなってしまった。

「…わかったよ!!」

父を睨みつける千和の瞳は、様々な感情が入り混じっているようだった。

諦めと、父へのうらめしさと、不安と…。

「聞き分けいいじゃん。行こうか」

男たちに腕を引かれ、父を睨みつけながら連れ出される千和

千和ちゃんが… …かわいそうにぃ…」とどこまでも他人事のような頼りない父は追いかけることもしない。

男たちに引きずられながら千和が振り向くと、目が合った父が慌てて借家のドアを閉めた。

「ああ~~~!! ひどい~~~っ!!」

 

男たちの車に千和が乗せられそうになったとき、1台の白いBMWが借家の前の砂利道を入ってきた。

男たちも千和も場違いな車の登場に目を奪われていると、BMWのドアが開いた。

颯爽と降りてきたのは、明るいベージュの三つ揃えスーツを着た間宮北斗だった。

 

「あっ…」声にならない声をあげて驚く千和

「なんだテメェ!?」と男がすごむが、北斗は堂々としていてひるまない。

「その娘から手を放せ」

「なんだぁ!?」

「いいから放せ」

「こいつの父親が作った借金200万、お前に払えんのか?」

「…小切手でいいか?」

北斗は男たちの間を割って、千和の前へ歩み寄った。

「助けてほしいか?」

まっすぐに千和を見つめながら尋ねる。

「えっ…?」戸惑う千和

「それって… 条件付きって、こと?」

千和の質問に答えずに北斗が言う。

「助けてほしいかって聞いているんだ」

「…… 助けて…ほしいです!」

北斗をまっすぐ見返して千和が言った。

何も言わず、北斗はわかった、という目で千和を見つめた。

 

「あんたが払うのか?」

「…保証人になっていない親族への借金返済の要求。

朝8時前、午後9時以降、夜討ち朝駆けの借金取り立て。

これらはすべて違法行為だって知ってるよな?

次この家カモにしようとしたら、警察に通報する。いいな?」

「…わかったよ!」

男たちを引き下がらせた北斗の背中を、千和が見つめる。

北斗が小切手をその場で書いて男たちに渡すと、男たちは逃げるように立ち去って行った。

 

「はい。次はこれだ」

振り返った北斗が胸のポケットから書類を出して千和に手渡す。

千和が広げて見ると、それは夫の欄に間宮北斗の名前が記入された婚姻届だった。

千和が北斗を見上げるが、北斗は顔色一つ変えず

「ほら、ここにサイン」とボールペンを手渡す。

諦めてため息をつき、千和は婚姻届に自分の名前を記入しながらつぶやいた。

「結婚で…もうちょっとロマンチックなことかと思ってた」

「残念だったな」

「…なんであたしがいいわけ!? 第六感?ビビビってきたの?

ちょっとは好きだとか、なんかいいとこあると思ったからプロポーズしたんだよね?

だったら花とか?指輪とか?なんかもうちょっとないの?」

北斗はそんな話はどうでもよいとばかりにそっぽを向いている。

「あたしに好かれようって努力が、全然見えないんですけど!」

書き終わった婚姻届を千和が差し出すと、北斗は無言でそれを受け取り、胸ポケットにしまった。

「ああ。忘れてた」

北斗は車から小さな箱を取り出してくると、千和の前でふたを開けた。

そこには大粒のダイヤモンドが輝く指輪がーーー

目を見張る千和を、「手、出して」とぶっきらぼうに北斗が促す。

千和が左手を差し出すと、薬指に北斗が指輪を通した。

ゴージャスな指輪に思わず見とれる千和

「一応恰好だけはつけとかないとな」

信じられないといった顔で北斗を見上げた千和に、彼が言った。

「会わせたい人がいる」

 

千和を乗せて、北斗の車はあの豪邸に到着した。

重厚な屋敷を見渡しながら、千和は驚きを隠せない。

「これ、あなたの家?」

「…俺が追い出された家だよ」

「…そう…」

並んで立つ二人の前の扉が開く。

使用人らしき初老の女性が「いらっしゃいませ」と丁寧にあいさつする。

北斗も、戸惑う千和も軽く会釈をして、建物の中に入っていった。

「どうぞ。こちらでございます」

屋敷の中はいかにも豪邸といった重厚感あふれるクラシックなたたずまいで、千和は圧倒されながらも北斗について階段を上がっていく。

「お着きになりました」

部屋に通されると、老人が書斎の奥に座っていた。

「すみません。急に押しかけてしまって」

北斗がそう言うと、「いや…いい暇つぶしだ」と老人は答えた。

「仰せの通り、小鳥遊千和との結婚を決めてまいりました」

驚いて北斗を見る千和

「これで私のことを間宮家の一員として迎えてくれますか」

「…えっ?」

千和には状況がまったくわからない。

老人は黙って千和の前に立つと、眼鏡をはずしてじろじろと千和を見つめた。

「なるほど… そっくりだ」

感慨深げに老人が言う。

戸惑う千和の前で、気難しそうな顔をしていた老人がぱっとにこやかになった。

「やっぱり血は争えんね。木綿子(ゆうこ)によく似ている…」

なんのことがわからず、千和は言葉も出ない。

「そうですよね」と北斗が微笑む。

「私も写真で見てそう思いました」

「木綿子って…?」

ピンとこない千和に、背中を向けた老人が語り出す。

「私が…一生をかけて愛した女性だ。それが群馬の教員ふぜいと結婚して、つまらん男とつまらん一生を終えていたとはなぁ…」

「…群馬って…あ!おばあちゃん!」

「そうだ」

「つまらん男って、おじいちゃんのこと?

…ちょっと待ってよ!うちのおじいちゃんの悪口を貴方に言われる筋合いはないんですけど」

「私と暮らしていれば、木綿子は一生、何不自由ない豊かな暮らしを送れたはずなんだ。…結ばれるのは許されない間柄だった。木綿子は私のために身を引いたんだ。ずっと探し続けたが、再会は叶わなかった」

しみじみと語っていた老人が振り向いて北斗の方を見た。

「孫の北斗と、木綿子の血筋を引き合わせる。せめてもの罪滅ぼしだ。

木綿子とはもう二度と会えないが、これで人生の帳尻はあう」

「これで約束通り、間宮ホールディングスの一部門と株の半分をお譲りいただけますね?」

約束を取り付けんとばかりに念を押す北斗の言葉に、千和はようやく状況をのみこんで改めて驚いた。

「…わかった。そうしよう」

二人のやりとりを見ながら、自分が巻き込まれたことを知り、千和は愕然とするのだった。

 

「最低!」

千和が北斗をなじる。

爽やかな初夏の公園の風が、きっちりとまとめた北斗の髪をなであげる。

「何が?」

「何がって…結局出世のための結婚ってことだよね!?」

「俺は…あの人の長男の息子なんだよ。でも…妾腹なんだよ」

千和は少し戸惑いながら北斗を見つめた。

「いずれあの家は俺のものになる。会社もな。俺が全部のっとって牛耳ってやる」

暗い決意を秘めたような北斗の言葉に、千和は何も答えられない。

「そのためにはまず、あのジジイの機嫌をとんなきゃなんないんだよ」

「ふぅ…っ」千和はため息をついた。

「そうか。なんかウラがあるとは思ってたけど…そういうこと」

「じゃ、やめるか?結婚」

あっさりと言う北斗に少し驚いて、千和は左手にはめられた指を見た。

「…」

今朝ソープに連れて行かれそうになったところに北斗が颯爽と現れてスマートに助けてくれたことを思い出す。

迷っている千和をチラリと見て、北斗が続けた。

「俺は結婚より野望が大事、おまえは結婚より生活が大事。利害は一致している。だろ?」

「…まあね」

「じゃあな」

そう言うと、北斗はうつむく千和を置いて歩き出した。

北斗の背中に向かって千和は問いかける。

「ほんとにそれだけ?おじいさんに私と結婚しろって言われたから…理由はそれだけなの?

私じゃなくて、ほかの女でもそうしてた?」

北斗は立ち止まって振り返ると千和に言った。

「初めてキャバクラで会った時、おまえ、守りたいものがあるって言ったよな?」

「…言ったけど」

「どうしても手に入れたいものがある俺と、守りたいものがあるおまえとだったら、上手くいくって思ったんだよ」

「……」

「それと…今日取り立て屋にからまれたとき、おまえは親父かばって犠牲になろうとしてたよな」

千和をまっすぐに見つめて北斗が言う。

「合格だ」

「えっ…?」

「口だけじゃないんだと思った」

北斗はもう一度「じゃあな」と言うと、今度はそのまま振り返らずに去っていった。

「合格って…なによ、偉そうに」

千和は左手から指輪を外すと、「ふんっ!」と投げ捨てようとしてみたが、投げることができない。

「まあ…もったいないよなぁ」

千和のこの一言が向けられているのは、指輪だろうか。北斗だろうかーーー

 

車に戻った北斗は、自分の野望に一歩近づいたことを実感する。

「ふぅ…っ」深く息を吐いて、まっすぐに前を見つめて車を走らせた。

 

父と暮らす借家に帰宅した千和

「ただいまー…」家に入ると、千和を見捨てた父がこたつで気持ちよさそうに寝ている。

「あんな騒ぎの後で、よくこんな気持ちよさそうに眠れるよね…」

呆れる千和の視線に気づいたのか、父が目を覚ました。

「あれ…帰ってたんだ。無事だったの」

「そうみたい」

「そう。よかったねぇ」

他人事のようにへらへら笑う父に、千和が言った。

「お父さん。私、結婚したから」

「ふうん…結婚」

本気にしていないのか、千和の結婚に興味がないのか…

「結婚して、間宮千和になりました」

「ん…いいんじゃないの?で、相手は何やってる人?」

寝返りを打ちながら、けだるそうに父が言う。

「企業経営者です。年収5000万の」

背中を向けた父ががばっと跳ね起きた。

「5000万!?」

はにかんだ千和が「じゃーん」と左手の結婚指輪を見せる。

「か、輝いてる…!まぶしい…」

驚く父を見て、千和も嬉しそうに笑った。

 

(episode2へ続く)

 

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円城寺マキ先生の原作コミックス「はぴまり ~Happy Marriage!?~」(全10巻)はドラマとだいぶストーリーが異なりますが、北斗と千和が本当の夫婦になるまでの過程を楽しく描いていておすすめです!

 

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【はぴまり】二次小説(その6)

【重要なお知らせ】

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(なお、こちらのブログで書いた過去の記事もすべて引っ越ししております)

 

 

 

 

(大好きなコミックス「はぴまり ~Happy Marriage!?~」(全10巻)のその後を二次小説で想像してみました。二次小説についての詳細はこちらをご覧ください。)


 

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その5からの続き)

相馬さんにキッチンの使い勝手をいろいろと伝えるために、一緒に夕食の支度をした。

「まあ、北斗様、ずいぶんと好き嫌いがなくなったのですねぇ。

奥様の手料理がよっぽど美味しいのでしょうね」

「いえいえ、そんな! ただ、北斗は外食も多いし、放っておくと食事をおざなりにしてしまう人だから… 私の作ったご飯を食べてもらえる時くらいは栄養バランスをなるべく考えたいなって思って」

そんな話をしながら、出来上がったご飯をダイニングテーブルに並べていると、ガチャリと玄関が開く音がした。

「あ、おかえりー。今日は早かったんだね」

「ああ。俺も今のうちに相馬と今後のことを色々打ち合わせしておこうと思って」

ネクタイをゆるめながら北斗がソファに座る。

「北斗様、ありがたいお話ですが、そのお話は後日改めてになさいませんか?

わたくし今日はこれで失礼させていただきます」

「えっ、相馬さんもう帰っちゃうんですか?」

「はい。北斗様もせっかく早めにご帰宅されたことですし、今日はぜひお二人の時間をゆっくりお過ごしください。

赤ちゃんが生まれましたら、なかなかお二人だけの時間もお取りになれないかと思いますので」

「そうか…ありがとう。また連絡する」

相馬さんは持参のエプロンをさっとたたみ、にこやかに帰っていった。

 

「この味噌汁は相馬が作ったんだろ?」

「あったりー!おふくろの味がする?」

「そこまでじゃねえよ。おまえの作る味噌汁はいつも少し味が薄いからな」

「北斗の健康のために、塩分を考えてお味噌ひかえているんだもん」

「おまえ、俺を年寄り扱いしてるだろ…」

こんな何気ない会話を交わしながら食卓を囲む。

子どもが大きくなったら、このダイニングテーブルを3人で囲むことになるんだよね。

その風景を漠然と想像して、私はふと爽汰くんという男の子のことを思い出した。

「そういえば、爽汰くんどうしてるかな… 私たち、去年も一昨年も間宮観光のクリスマスクルーズ参加できなかったもんね」

二年前のクリスマスクルーズのときに会った、北斗の取引先の社長の息子さん。

私のことをすごく気に入ってくれて、私たちの客室で北斗と3人で寝たんだった。

あのとき初めて、北斗と私と私たちの子と…っていう3人の暮らしもいいなって思ったんだ。

「ご両親からの年賀状では、入退院を繰り返してはいるが学校もそれなりに通えてるみたいだ」

「私、あのときは爽ちゃんが病気かかえてるなんて知らなくて…

次のクリスマスクルーズで会おうねって気軽に約束しておいて破っちゃった」

「仕方ねえだろ。間宮を出た後でのこのこクルーズに参加するわけにいかないし」

「ねえ、まだ先だけど、今年のクリスマスクルーズは参加できるかなあ?

理さんが間宮観光の社長なら、これから取引も始まるしお願いすることできるよね!」

「…俺は行かねーぞ」

「えー!?どうして?」

「あのガキ、絶対またお前と一緒に寝たいって俺らの部屋に押しかけてくるぞ。

それに今年は俺たちの赤ん坊まで生まれるんだ。お前の両隣をガキたちに占領されたら俺が千和の隣に寝れないじゃないか」

憮然としながら箸を口に運ぶ北斗。子どもにヤキモチやくなんて可愛い。

 

「俺はクルーズより、あの南の島へ行きたい」

「あの南の島って…北斗がサプライズで用意してくれた?」

「そう。おまえの24歳のバースデープレゼント。あの誕生日の旅行以来行ってないだろ?」

「ってゆーか、あの島まだ北斗のものだったの!?」

「あたりまえだ。おまえにやったプレゼントを人にやるわけないだろう」

呆れたような顔で北斗は言うけれど、呆れちゃうのは私の方だよ!

いくら小さな島だって、維持するのに沢山のお金がかかることくらい私にだってわかる。

「北斗、社長辞めてしばらく無職だったから、とっくに手放してると思ってた…」

「…おまえ、資産運用って言葉知ってるか?」

「それどういう意味⁉︎  私だって言葉くらい知ってるよ」

「とにかく、俺が無職だろーが社長やっていよーが、お前は金のこと気にする必要ないってこと」

まるで私には説明しても無駄っていう言い方をされて、なんだかおもしろくない。

「…その島も、その、資産運用…っていうのをしてるってこと?」

「まあ、そうだな。おまえの誕生日に合わせてあの島に手を入れたり別荘を建てたりしたけど、俺たちもしょっちゅう行けるわけじゃない。

遊ばせておくのはもったいないし、島も別荘も管理が面倒だから、間宮観光時代のツテで、金持ち向けの会員制旅行クラブを運営している会社に島をまるごと貸してあるんだよ」

「へ、へえー、なるほどねっ」

「安心しろよ。2年ごとに契約更新できるから、俺たちがリタイヤして住むことになったらいつでも住める」

バカンスならともかく、北斗がなんにもない南の島に住むなんて似合わない気がするけど…

でも、子どもが大きくなったら、のんびり二人の時間をそこで過ごすのも悪くないかな。

「でも、その島へ行くのはクリスマスじゃなくたっていいでしょ?

私は爽ちゃんとの約束、ちゃんと守りたいもん」

やれやれ、っていう軽いため息を一つして、北斗は食後のお茶をすすった。

それって私の好きにしていいってことだよね?

 

食べ終わった食器の後片付けをしていたら、キューっとお腹が固くなった。

「あ、またお腹張ってきた…」

「大丈夫か?」

お風呂上りの北斗がパジャマのボタンを留めながらシンクまで来てくれる。

「うん、最近よくあるんだけど、すぐにおさまるから平気」

「無理するなよ。食器の片付けくらい俺がやってやる」

えっ!?北斗がそんなこと言うなんて!

と、驚いた私を、北斗がひょいとお姫様抱っこした。

「ちょ…っ!北斗!お腹大きくなって重たいのに無理しないで!」

「おっと、確かに前より重いな…」

「わ、私が重くなったんじゃないよ!赤ちゃんがいるせいだからねっ///」

寝室まで抱っこで運んでくれるつもりみたい。

赤ちゃんと私、一緒に北斗に抱っこされてるみたいで、なんだかすごく嬉しい。

細心の注意を払って私をベッドにそっと下すと、

「うあー、腕がしびれた」って意地悪く言いながら、北斗も隣に寝転がった。

「おまえ、産後ちゃんとダイエットしろよな」

「えっ、だから赤ちゃんがいるからだってば///」

「ごまかすな!太ももや尻にまで肉ついてるの、ちゃんとわかってんだぞ」

北斗がギロリと私を睨む。す、すみません…

 

今までだったらこんな時間に二人でベッドに入ったら必ず北斗に襲われて(?)いたけれど、最近の北斗は私と赤ちゃんを気遣って、軽くて優しいキスをしながら、頭やお腹を優しくなでてくれる。

ほんとは私も物足りないけど、北斗の優しさをかみしめながら、横向きの体勢で北斗の胸におでこをつける。

「まだ張ってるか?」

「ん。もう平気。少し休んだらキッチンに戻るよ」

「俺の後片付けじゃ信用できねえの?一人暮らしだって長かったんだぜ」

「…あの汚部屋で、とても後片付けできてたとは思えないんだけど」

「まあ、あのマンションで食べることはめったになかったからな」

「ほらー!後片付けやってなかったんじゃない」

クスクスと二人で笑いあう。

 

向かい合うように横向きになっていた北斗が、おいで、と二の腕を伸ばしてくれる。

私はその腕の付け根に頭をちょこんとのせながらつぶやいた。

「…キングサイズのベッドにしといてよかったね」

「おまえ、俺が黙ってこれを買ったときにはあんなに怒ってたのにな」

北斗がむすっとした顔で言う。

「俺がいなくちゃ生きていけないがHはしなくても生きていけるとか言って、しばらく寝室別にしてただろ」

北斗、意外と昔のこと根に持ってるんだね(苦笑)

「だって、私の狭い実家に住んでるときだったんだもん!考えなしにこんな大きなベッド買っちゃって…って思った」

「俺は考えなしに買ったりなんかしねえ。

いずれ引っ越すんだから、このサイズで質の良い物を買っておいた方がいいと思っただけだ」

腕枕をした手で、私の髪をいじりながら北斗が得意げに言う。

「うん… これなら赤ちゃんが生まれて3人で寝ても窮屈じゃないもんね」

私がそう言うと、髪をもてあそんでいた北斗の指がぴたりと止まった。

「…はあ? おまえ何言ってんだ」

「何って?私変なこと言った?」

「ガキと3人一緒に寝るなんて冗談じゃねえよ!ここは俺と千和だけのスペースだ」

「ええっ!?冗談言ってるの北斗の方でしょ!? 赤ちゃんはどうするのよっ」

「そんなの、ベッドの横にベビーベッドでも置けばいいだろ」

「このベッドなら添い寝でいいかなって思ってたのに~」

「ダメだ。俺と千和のベッドには自分の子どもだって寝かさねえ。千和の隣は譲らないからな」

プイと横を向く北斗の頬がふくれているように見えて、北斗がずいぶん子どもっぽく見えた。

「ふふ… なんかもうすでに子どもが一人いるみたい」

「何とでも言っとけ。お前を抱けるようになったら倍にして返すからな」

「…///」

 

子どもが生まれたら、北斗ずいぶんヤキモチやきそうだな。

北斗のヤキモチからケンカになって、でもすぐに仲直りして、を繰り返すんだろうな。

子どもに私を取られちゃう分、夜は私を独り占めしようとするのかな。

でも子どもにメロメロになるのは、意外と北斗の方だったりして…

そしたら今度は私が二人にヤキモチやくのかな…

 

これからのことを想像しただけでついニヤけてしまう。

北斗と二人で夫婦として歩む人生と、生まれてくる子どもも一緒に家族として歩む人生ーーー

北斗と出会う前の人生からは想像もつかないくらい、私の人生は豊かな厚みをもって未来へ続いている。

そして、私たちを見守ってくれる人たちが、二人の歩む道を温かく明るく照らしてくれる。

これからもずっと、北斗と私は離れることなくこの道を歩いていくんだーーー

 

北斗の腕の中で幸せにひたっているうちに、頭の上から北斗の寝息が聞こえてきた。

食器の片付けは明日の朝にまわして、私もこのまま寝ちゃおうかな…

 

すると、またお腹がキューッと固く張ってきた。

さっきからちょくちょく張ってるけど、ずいぶん規則的に波がくるような…

 

うそ…

 

これってもしかして陣痛~~〜っ!!!?

 

(おわり)

 

【はぴまり】二次小説(その5)

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その4からの続き)

私の妊婦生活もいよいよ臨月に突入。

安産のためにはたくさん歩いた方がいいとお医者さんから言われて、最近の私は自宅最寄り駅から二駅離れた北斗のオフィスまで愛妻弁当を歩いて届けに行っている。

 

「こんにちはー。」

デザイナーズマンションの一階に構えたオフィスのドアをいつもどおり開けると、

千和さん!」と懐かしい声が耳に飛び込んできた。

「八神君!久しぶりー‼︎ 今日から出社なんだね!」

「はい!社長に一から鍛え直してもらいます。千和さんもよろしくお願いします」

にこやかな八神君の背後から、不機嫌オーラを漂わせた北斗がジロリと睨みをきかせている。

「おい、八神。ウチの奥さんのこと気安く名前で呼ぶんじゃねえよ」

「えっ…だって俺、小鳥遊さんって呼んだことしかなかったし、社長と同じ名字なのに三浦さんて呼びづらいじゃないですかー」

「じゃあ奥様とか社長夫人とか適当に呼んどけ」

あーあ、北斗ったら初日から八神君いじめちゃってるよ。

「や、八神君、気にしなくていいからね!

他の社員さんも千和さんって呼んでくれてるし」

「えっ⁉︎じゃあなんで俺だけダメなんですか??」

釈然としない様子の八神君。

北斗への当てつけで何かと言うと八神君の名前を出してた私のせいです。ハイ。

ごめんね、八神君(苦笑)

 

最初ここにオフィスを構えたときは北斗を含めてたった三人だったからずいぶん広く感じたけれど、北斗の間宮時代の経営手腕と人脈が評価されてどんどん顧客企業が増え、今では社員さんも10人に増えた。

八神君が入社したことで理さんの会社との契約交渉も具体的に始まるみたいで、きっと北斗はますます忙しくなるんだと思う。

もう30歳過ぎてるんだし、妻としては夫の体が心配ではあるけれど、北斗の場合は忙しくなるほど顔つきが精悍になって、振る舞いの一つ一つに無駄がなく自信が溢れ、ついうっとりと見てしまう。

まあ、たまにケンカして寝室を別にすると、よく眠れないみたいで生気のない顔になってたりするけど。

大好きな北斗をいっぱい見たくて、毎日お弁当を届けに来ているんだ。

 

「だいぶ忙しそうだけど、お昼ご飯はちゃんと食べてね」

パソコンに向かっている北斗の横にお弁当をそっと置いて立ち去ろうとすると、

「そうだ、千和」と、珍しく北斗に呼び止められた。

「どうかした?」

「前に話したが、間宮商事との契約も近いし、そろそろ相馬に俺の秘書として復帰してもらおうと思ってる」

「ほんと⁉︎相馬さん二つ返事で駆けつけてくれるんじゃない?」

「俺もそのつもりで、間宮のじいさんに了解もらった上で相馬に話したんだが…彼女に2ヶ月ほど待ってほしいと言われたんだよ」

いつになく歯切れの悪い北斗の言い方に、私も少し不安になる。

「2ヶ月って…  間宮の家で今何か問題抱えてるのかな?」

「いや、そうじゃなくて…

彼女、どうやらおまえの出産後しばらくの間、俺たちの身の回りの世話をするつもりみたいだ」

まいった、という表情を見せる北斗の様子から、断ったのに断り切れなかったという申し訳なさが伝わってくる。

「えぇー⁉︎ なんで相馬さんそんなに張り切ってるの?」

私が驚いて声を上げた瞬間、オフィスのドアが開き、絶妙のタイミングで相馬さん本人が入ってきた!

「まああ、奥様!ご無沙汰しております。お腹もだいぶ大きくなられて…」

大きな瞳を少しうるませながら、抱きつかんばかりに私に駆け寄ってくる。

「相馬さんっ、今北斗に聞いたんですけど…」

「それなら話が早いですわ!

奥様は出産後ひと月は水仕事をなさってはいけませんでしょう?

体を十分に休ませないと産後の肥立ちも悪くなりますし、赤ちゃんのお世話も昼夜なくありますから、とても大変かと。

北斗様も奥様も頼れるお母様がいらっしゃいませんし、僭越ながら私が母親代わりにお二人のお世話をさせていただきたいのです」

「う、あの…」

今は便利な家電も多いし、相馬さんに頼らなくても…と言いたいのに、美しい笑顔をさらに輝かせて見つめられると、そんな言葉は飲み込まざるをえなくなってしまう。

もうすぐ還暦のはずなのに、見た目はアラサーの妙齢な美人なんだもの…

同性の私でも相馬さんの輝く瞳には吸い込まれてしまいそうになる。

 

固まる私を知ってか知らずか、なおも相馬さんは上機嫌に話し続ける。

「実は、奥様が出産される前にご自宅のお勝手のことやらお聞きしておきたくて、先ほどご自宅を訪ねたところですの。

お留守だったので、もしかしたら北斗様のオフィスにいらっしゃるかと思い、こちらへ伺ったんです」

「いえあの、相馬さん、私なら産後でも一人でなんとかなるので…」

「奥様!遠慮されなくても大丈夫ですわ。

間宮元会長からのご指示でもありますし、北斗様の身の回りのお世話には慣れておりますから」

「おじいさまも了承済みなんですか…」

ニコニコと微笑む相馬さんを前にすると、頑なに拒む姿勢も見せられない。

相馬さんの勢いに押されまくりの私を横で見ている北斗はニヤニヤ。

(ほら、断れないだろう?)と目配せしてくる。

こりゃ私も降参するしかないなぁ。

「あ、ありがとうございます。

それじゃ、お言葉に甘えてお願いしちゃおうかな」

「はい、お任せ下さいませ!精一杯お二人をサポートさせていただきます。

奥様の入院中も、北斗様がおうちを散らかさないように見張っておりますからご安心を」

「相馬、一言余計だぞ」

他人事みたいにニヤニヤしていた北斗だったけど、自分にも火の粉がふりかかってきてちょっと不機嫌になってる(苦笑)

ウフフ、と相馬さんはいたずらっぽく微笑みながら

「奥様ご自宅へご一緒してよろしいですか?

先ほど申し上げたように、今のうちにお勝手のこと色々とお聞きしておかなくてはいけませんので」

と嬉しそうに言った。

 

相馬さんの車に同乗させてもらい、家に戻る。

「そういえば、男の子か女の子かはわかってらっしゃいます?

お名前はもうお二人でお決めになったんですか?」

「いえ、それが…私は検診で性別を聞いたんですけど、北斗は生まれるまで知らないでいたいって。

だから名前も生まれてから決める予定なんです。

候補は男女それぞれの名前でいくつか出したんですけど、北斗と意見が合わなくていつもケンカになっちゃって。生まれてからもすんなり決まる気がしないんですけどね~」

苦笑いする私に微笑み返す相馬さんの顔は、本当に慈愛に満ちている。

間宮家専属秘書の相馬さんに産後のお手伝いに来ていただくのは気がひけるけど、実際のところとてもありがたいお話だって思う。

北斗のことよくわかってくれてるし、私が産後あんまり動けなくても、相馬さんなら北斗も気を遣わずにすむと思うし…

北斗が間宮家を去った後まで相馬さんがこうして親切にしてくれるのも、北斗の根っこの部分の優しさを知っててくれてるからじゃないのかなーーー

「相馬さん、ほんとにありがとうございます。

私たち、もう間宮家の方々にお世話になれる立場じゃないのに…」

「そんな寂しいこと言わないでください、奥様。

お二人が間宮の家を去られる時にも申しましたが、私の中では北斗様はいつまでも間宮のお坊っちゃまなんですよ。

奥様のおかげで今はヒヨコから立派なニワトリになられましたけれども、長年お世話させていただいた坊っちゃまをこれからもお支えできるなんて、本当に幸せなことですもの。

それに、奥様のことも私は初めてお会いした時から大好きでしたの。

素直でまっすぐで、反応が可愛らしくて…。

そんなお二人のお力になれることも、お二人の赤ちゃんを間近で見られることも楽しみで仕方ありませんわ」

相馬さんの言葉には一つの偽りも混じっていないように感じられて、私はただただ感謝するしかなかった。

 

私たちが三浦北斗と三浦千和として再婚したとき、私たちにはお互いが好きっていう気持ちしか残っていないと思ってた。

でも違った。

人との絆はちゃんと残ってた。

今も私たちを見守ってくれている人たちは、私たちが本当の夫婦になるこれまでの過程をそばで見守ってきてくれた人たちだ。

夫婦になるってことは二人きりの世界をつくるってことじゃなくて、二人が一つになって周りとつながっていくことなんだ…

そんなことを漠然と考えていると、

「着きましたわ」

自宅のサンルームの前に、道路になるべくはみ出さないように車を横付けした相馬さんが微笑んだ。

 

(その6へ続く)

 

【はぴまり】二次小説(その4)

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その3からの続き)

冬の寒さがいよいよ鋭く肌を突き刺すようになってきた1月。

今日はお義父さんの命日だ。

先週末、三回忌の法要があるから参列しないかと相馬さんから連絡があったけれど北斗は断った。

間宮の親戚一同が集まる場所だもん、北斗が断っても仕方のないことだと思う。

けれど、やっぱり私はお義父さんにご挨拶したい。

お墓参りに行くことを北斗にも伝えようと思ったけれど、お正月休みも早々に切り上げるほど忙しそうだったから、私が北斗の分までお参りしてくることにした。

 

北斗のお母さんが眠るお墓と違って、間宮のお墓は都内でも有名なお寺の一角にある、それはもう立派なお墓だ。

法要が終わったばかりで、お花もたくさん供えられていたので、私が持ってきたささやかなお花は隅っこに置かせてもらうことにした。

(お義父さん…天国でお義母さんと仲良く暮らせていますか?

北斗は元気でやっています。お義母さんの姓に戻って地位も名誉もなくなりましたが、一から会社をおこして頑張っています。お義父さんならきっと北斗の成功を信じて応援してくれますよね…?)

 

千和…」

手を合わせていた私の後ろから大好きな人の声がして、私は驚いて振り向いた。

「北斗… 北斗も来たんだね」

「ああ。命日くらいはな…」

ビジネススーツのままの北斗は、私が置いた花の横に自分が持ってきた花束を無造作に置き、間宮の墓石をじっと見つめる。

そういえば、お義母さんのお墓参りのときも、北斗は手を合わせたりしない。

立ったままお墓をしばらく見つめて、さっと帰ってしまう。

きっと心の中ではお義母さんやお義父さんに語りかけているんだろうと思う。

 

「車で来たのか?」

「ううん。電車とバス乗り継いで来たの」

「身重で大変だったろ。家まで送る」

今来たばかりなのに、あっさりと北斗は踵を返す。

私は墓石に一礼して、慌てて北斗の後を追った。

 

車に乗るとしばらくして、北斗がぽつりと話し始めた。

「俺がまだガキの頃さ… 学校のテストで94点を取ったんだ。

満点はクラスに一人もいなくて、俺がトップだった。

嬉しくて親父にその答案を見せたんだが、親父は誉めるどころか2問間違えたことを責めた。

お前が将来行く世界では一つのミスも許されないんだぞ、ってさ」

「そうだったんだ…

私が知ってるお義父さんは優しそうな印象だけど」

「それは親父が歳を取ったせいだろ。とにかく俺に対しては厳しい親父だった。

"君は僕が嫌いなんだから僕を見返してみなよ"とも言われた。

俺はその後必死で勉強したけど、今思えば親父を見返してやるという気持ちと同時に、親父に認められたいっていう思いもあったんだろうな」

こんなことを北斗が話してくれることってほんとに珍しい。

今日がお義父さんの命日だっていうこともあるけど、子どもが生まれてくることで、お義父さんと自分の親子の絆を北斗自身思い返す機会ができたのかもしれない。

お義父さんの死後に血のつながりがなかったってわかったけれど、愛憎混じり合った二人の関係はまぎれもない親子だったものね。

 

「今日は… ありがとな。親父の墓参り」

「えっ、ううん。北斗の妻だもん。当然だよ」

運転する北斗の横顔を見つめる。

仕事の合間とはいえ、お墓参りをすませたせいか仕事中の厳しい顔つきではなく、家にいるときのような優しい顔に見える。

今ならあの話をしても大丈夫かな…

「あのね、北斗… 理さんのことなんだけど」

「理さん?こないだの話か?」

「うん… やっぱり、理さんご夫妻の気持ちを考えたら、間宮商事が北斗の会社の顧客になる話、受けてもいいんじゃないな」

おそるおそる言ってみたら、途端に北斗の顔つきが厳しくなった。ちょっと後悔…

でも、言い出した以上は私も後に引けない。

「理さん、自分のお母さんの代わりに北斗に償いができないかって一生懸命考えたんだと思う。

北斗がそれを拒否したら、理さん達はずっと罪悪感で苦しみ続けなきゃいけなくなるんだよ?」

「理さんが罪悪感を感じる必要も、俺に償いをする必要もまったくないと言ったはずだ」

「それはそうなんだけど!

理さんの気持ちとしてはそんな風に割り切れないの、北斗にだってわかるでしょ?」

「俺にはわからねえ。悪いがそんな感傷は持ち合わせていない」

やっぱり取りつく島がない。

「もぉ…北斗のわからずや!」

いつものように思わず感情的に北斗をなじってしまった。

「わからずやはおまえの方だろ?」

「なんで私がわからずやなのっ⁉︎」

「俺はビジネスの話に感傷は持ち込まないって言ってるんだ。

理さんの申し出を感傷で断ってるんじゃない。

間宮邸で話したとおり、今の俺の会社の規模じゃ間宮商事の仕事はさばききれない、それだけだ」

「それはどうにかならないの…?」

「間宮商事と間宮観光を顧客にできれば俺の会社にとってもでかいメリットになるのはわかってる。

だからこないだからちゃんと水面下で動いてる」

感情的になった私とは対照的に、北斗は淡々と話を続ける。

仕事の話をしている時の北斗の顔は、冷徹とも思えるくらい隙がなく、端正な顔立ちがより一層整って見える。

思わず見とれてしまっている自分に気がつき、私は慌てて北斗に尋ねた。

「じゃあ、近いうちに理さんからの申し出を受けられるってこと?」

「そうだな…間宮グループと提携できそうな有力な顧客企業の開拓も進めてはいるが、やっぱりウチの会社の人手を増やさないことには、間宮以外の仕事に対応しきれなくなる」

北斗はしばらく沈黙して何か考えているようだったけど、チラリと私を見てこう尋ねてきた。

「おまえ、八神とまだ連絡とってるのか?」

「なっ、なによ急に…  最近は飲みに行ったりしてないよ!」

「そうじゃねえよ。連絡が取れるかって聞いてるんだ」

「連絡、取れると思うけど」

「じゃあ今度八神を飲みに誘え」

「は?いきなりなんで??

私が八神君と飲みに行くの、あんなに嫌そうにしてたじゃない」

「おまえ、ほんとに鈍いなぁ。

八神を俺の会社に引き抜こうとしてるんだよ」

私の理解力のなさに、北斗の顔がやれやれと言っている。

「えぇ⁉︎八神君を、北斗の会社に⁉︎」

突然の話でびっくり!

「おまえが八神を新人研修で教えてた頃、あいつは素直で飲み込みが早い、良い人材だって言ってたろ。

八神がおまえにちょっかい出すようになってから俺もあいつがどんな奴か気になって、直属の上司から奴の仕事ぶりを時々聞いたりしていたんだが、上司からも高評価でさ」

…ちょっかい出されたのは一度だけなんですけどね///

「あいつなら間宮商事の内情もある程度知ってるはずだし、人当たりもいいから渉外に使えそうだと思ったんだよ」

「そっかー‼︎北斗の会社に転職できれば、八神君東北支社から戻ってこれるしね!

前に八神君が東京に出張で来て飲んだ時に、彼女と遠恋してるし早く東京に戻りたいって愚痴こぼしてたんだ」

北斗はそれを聞いて、気まずそうに口元に手をもっていった。

「あいつが東北に行ったの、元はと言えばおまえが俺についた嘘のせいだったんだぞ…」

「え??どういうこと???」

「おまえ、前に俺の海外出張中に八神と浮気したって嘘ついただろ」

「ちょっと待って!まさか北斗、それを間に受けて…

北斗が八神君を飛ばしたってことー⁉︎」

単なる異動だと思ってたのに、それはショック…

八神君ほんとゴメン‼︎てゆーか、北斗ひどすぎ‼︎

「ま、俺が間宮商事辞めた後も未だに東北に残ってるってことは、あっちで重宝されてるってことだと思うけどな。

俺も少しは罪悪感感じてるから、この機会に東京に戻してやろうと思って」

そんなことケロッとして言っちゃうあたり、北斗が罪悪感なんて感じてないの見え見えなんですけどー(苦笑)

でも、器用でそつなく仕事をこなせる八神君がスタッフとして入ってくれたら、きっと即戦力として役に立つと思う。

 

「…なんだよ。さっきから俺の顔見てニヤニヤして///」

北斗がむっつりと照れ臭そうに言う。

「今ね、なんか嬉しいなって思ったんだ。

北斗も私も、一度はいろんなもの全部捨てて、夫婦二人きりで再出発したでしょ?

でも、大切な人たちとの縁は切れてなかった。

おじいさま、相馬さん、理さん夫婦。

桜庭さんや朝比奈さん。

八神君も…」

「あと、片桐先輩もな」

私が片桐先生のこと苦手にしてるの知ってるくせに、意地悪な北斗はわざと名前を出す。

「片桐先生、突然ふらーってうちに遊びに来るの、北斗から言ってやめてもらってよぅ。北斗がいない時でもちゃっかりコーヒー飲んでくし、いつの間にかあの人のペースに巻き込まれて、いろんな本音言わされちゃうし…」

「本音って、俺に対する愚痴だろ?

今度片桐先輩に聞き出さなきゃな」

「それだけはやめてー!」

慌てふためく私を見て、クククと北斗が笑う。

口元に笑みの余韻を残しながら、北斗が穏やかに言った。

「おまえのおかげだよ。

おまえが俺と結婚してくれたから、他人を信用してもいいんだって思えるようになったし、周りに頼ったりできるようになった」

「北斗…」

「俺は親父から、自分以外の人間を信じるなと教えられきた。人間関係も、ビジネスの損得勘定の上でしか成り立っていなかった。

おまえと出会う以前の俺のままで間宮家を放り出されていたら、今頃俺には何も残っていなかっただろうな…」

苦笑いする北斗の膝にそっと手を置いて私は言った。

「北斗は根っこの部分は変わっていないと思うよ。

お義母さんと二人で幸せに暮らしてたときのまま。

お義父さんに認めてほしくて頑張っていた頃のまま。

北斗は自分が思ってるよりずっと優しくて純粋な人だよ。

だから私、契約結婚でも北斗のこと好きになれたんだもん」

「そういえば、前に美咲にも似たようなこと言われたな…」

「えっ?」

「いや、なんでもない」

 

それきりしばらく会話は途切れたけれど、私は北斗のさっきの言葉をかみしめていた。

北斗は優しい人。

でも、間宮のトップに立つという目的達成のために、その優しさを押し殺して冷徹でいようと努めていたんだと思う。

私と結婚したことで北斗の心を解放させることができたのなら、私が北斗のお嫁さんになったのにはやっぱり意味があったってことなのかな…

子どもが生まれて家族が増えても、結婚してよかった、家族がいてよかったって北斗に思ってもらえるように頑張ろう。

 

私の考えていることが伝わったのか、北斗は自分の膝の上に置かれていた私の手を取って口元へ持っていくと、

「これからも俺をよろしく頼むよ、奥さん」と微笑みながら、手の甲に優しくキスをしてくれた。

 

(その5へ続く) 

【はぴまり】二次小説(その3)

【重要なお知らせ】

ブログ開設して早々に恐縮ですが、ブログをお引越しさせていただきます。

http://ohisama-himawari.seesaa.net/

今後は上記のブログにて記事を書かせていただきますのでよろしくお願いいたしますm(__)m

(なお、こちらのブログで書いた過去の記事もすべて引っ越ししております)

 

 

 

(大好きなコミックス「はぴまり ~Happy Marriage!?~」(全10巻)のその後を二次小説で想像してみました。小説についての詳細はこちらをご覧ください。)


 

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その2からの続き)

水曜日。

病院での検診を終えた後に私は北斗と合流し、かつての職場だったイベント企画会社、アイ・マックスへと向かった。

私の短い大学生活(お父さんの借金で中退しちゃったから)でお世話になった桜庭先輩が立ち上げた会社で、私が間宮商事を退社した後に入社させてもらったんだ。

(実はその前にも一度この会社へ入ろうとしたけど北斗に強引に止められたんだっけ)

まさかその会社に、大学中退後少しだけお付き合いした朝比奈さんがいるとは思わなかったけど…

最初は別れた当時のお互いの誤解もあってしょっちゅう衝突したけれど、元々性格の良い朝比奈さんは一部下として私を鍛えてくれた。

職場唯一の女性の同僚の吉岡さんとはお互いの旦那の話をしたりして楽しかったし、ほんとに良い人たちに恵まれて仕事ができたと思ってる。

こうして、北斗の仕事の話に同席して会社に顔出せるなんて本当に嬉しい。

 

「こんにちはー」

事務所のドアを開けると、懐かしい面々の顔がそこにあった。

「あっ、まみや…じゃなかった、三浦さん久しぶり!」

「お前も来たのか〜!」

桜庭さんや朝比奈さん、吉岡さんが笑顔で駆け寄ってくれる。

「お腹だいぶ大きくなったのね〜!今何ヶ月?」

「来週から臨月に入るんです。吉岡さんは?もう安定期に入りました?」

「うん。明日で5ヶ月なんだ」

妊婦トークを繰り広げたかったけれど、後ろにいた北斗に咳払いをされてしまった。

「今日は仕事の打ち合わせで来てるんだ。雑談は俺が退出してからにしろ」

「はーい」

いそいそと会議用のテーブルにつく。

吉岡さんが北斗と私にコーヒーを用意してくれた。

「あ、三浦さん…て、ご主人も三浦さんよね。千和さんのはノンカフェインのコーヒーにしておいたわよ」

「お気遣いありがとうございます。普段あんまり気にしてないんですけどね。えへへ」

私たちの前に桜庭さんと朝比奈さんが座る。

「お仕事の話をするのは、ご主人が間宮商事の社長をされていた時以来ですね。

また一緒に仕事やらせていただけるなんて光栄です」と桜庭さん。

「いえ、あの時とは違って今は御社より小さい会社を切り盛りする立場ですから。お互いざっくばらんにいきましょう」

高級なスーツをバリッと着こなして、長身を少しだけ窮屈そうに折り曲げて座る北斗に私は思わず見とれてしまう。

その風格、どうみてもベンチャーの社長さんというより大企業の経営者だよね…

間宮商事に勤めてたときは、私こんなにかっこいい社長の元で働いてたんだなぁ。

契約結婚するまで北斗の顔さえ知らなかったけど(苦笑)

思えば、外で仕事をする北斗を間近に見たのは初めてかも。

私が北斗の会社を手伝うようになったら、毎日こんなふうに北斗の横にいられるのかな。

新居の設計でお世話になった山村さんの奥様みたいに、公私にわたって北斗をサポートできる妻になれるかな…

 

「おい、千和、体調でも悪いのか?」

うっとりと妄想にふけっていた私を体調が悪いと勘違いしたのか、北斗が心配そうに声をかけてきた。

「う、ううん!大丈夫!

やっぱりアシスタントとして働いてただけの私にはわからない話ばっかりだなーって…」

「三浦はアシスタントの枠に収まらない働きをしてくれていたよ。な、朝比奈」

桜庭さんが優しくフォローを入れてくれる。

「そうですよ。厳しい俺の指導にもしっかり耐えてくれたし、仕事も早くて確実だった」

少し照れ臭そうに朝比奈さんが褒めてくれる。

「まあ、ご主人とケンカした後なんかは、仕事が身に入らない時もあったみたいだけどな」

そ、それを言われるとほんとにお恥ずかしい…

「へぇーそいつは知らなかった」

北斗が小馬鹿にしたような目つきでジロリとにらんでくる。

そういう北斗だって、私とケンカしたときには「お前と一緒じゃないと眠れない」なんて言ってヘロヘロになってくせにっ///

 

「ほんとなら育児が一段落したら、ぜひうちの会社に復帰してほしいとこだけど、ご主人の会社を手伝う予定なんだよね?」

桜庭さん、そんな風に思ってくれてるんだ。認めてくれてて嬉しいな。

「そうなんです…」って私が答えようとしたときだった。

「いえ、その予定はありませんよ。

子どもも生まれるし、千和には当面専業主婦でいてもらうつもりです」

北斗が私の言葉を遮った。

「ええーっ⁉︎そんなの私聞いてない…っ」

思わず立ち上がってしまう私。

「だって北斗が言ったんじゃない!事業が軌道にのったら手伝ってくれって」

「それは妊娠する以前の話だろ。子どもが生まれるんだから話は別だ」

「だって…私は家だけじゃなくて仕事でも北斗をサポートしたいんだよ!北斗の役に立ちたいと思って簿記の勉強してるのに…」

「あのな、俺の仕事をサポートするっていうんなら簿記の勉強だけじゃ不十分なんだよ。おまえ経済新聞だってろくに読めないじゃねえか」

「う…そんな、人をバカ扱いしないでよ!」

「バカにバカって言って何が悪いんだ、バカ!」

「バカバカって連呼しないでよ、北斗のアホ!」

「俺のどこがアホなんだよっ!」

久しぶりにケンカがどんどんヒートアップする。

私たちのケンカを目の前に呆然とする桜庭さんと朝比奈さんが視界の端にうつるけど、そんなこと気にしてられないくらい北斗がムカつくっ!

「だって!! 北斗が間宮にいたときは、私なんにも北斗の役に立てなかった!

毎日家でご飯作ったり洗濯したり掃除したりするくらいで…

自分が歯がゆかったの。

毎日深夜まで働きづめの北斗を少しでもサポートして楽にさせてあげられたらって思ってたの。

今の北斗の会社でなら、私が勉強さえすれば役に立つことができるかもって思って頑張ってたのに…」

言いながら、涙が出てきてしまった。

北斗が深いため息を一つつき、私の頭をポンポンとなでる。

「おまえの気持ちはありがたいけど…

俺がおふくろと一緒に暮らしていたとき、おふくろは俺を食わせるために休みなく働いていた。

おふくろが死んでからは親父と暮らしたが、親父も仕事が忙しくてなかなか会う機会がなかった。

俺は自分の子どもにそんな寂しい思いをさせたくない。母親になるお前には、できるだけ子どものそばについていてやってほしいんだ」

北斗の意外な本音に、私は驚いた。

お義母さんのことはともかく、あのお義父さんと一緒に暮らしていたときにも、北斗は寂しさを抱えていたんだ…

北斗は、お義母さんを殺したのはお義父さんだと思い込んで憎むあまり、ずっとそれを自覚していなかったかもしれない。

でも、北斗は変わった。

私と結婚したことで家族の大切さをわかってくれたし、お義父さんが亡くなったことでお義父さんの北斗への愛情を知った。

だから今、子どもの頃の自分がお義父さんの愛情を求めていたことに気づくことができたんだ…

 

北斗の言葉はとても重くて、北斗の切ない思いがつまっていて、私はそれ以上反論することができなかった。

ケンカが終わったことがわかって、桜庭さんと朝比奈さんもホッと安堵の表情を浮かべている。

「ま、まあ、旦那さんの気持ちはもっともだよな。これから出産も控えてるわけだし、時間をかけて話し合えばいいんじゃないか」と朝比奈さん。

「そうですね…」と私も引き下がる。

北斗は思わず漏らしてしまった自分の本音を桜庭さんたちに聞かれて恥ずかしくなったのか、無言のままそっぽを向いている。

「じゃあ、仕事の話は終わったんで私はオフィスに戻ります。

千和はまだ時間があるだろ。皆さんの仕事に差し支えのない範囲で話をさせてもらうといい。俺の夕食は心配しなくていい」

ビジネスモードに戻った北斗は、スマートな挨拶を残しアイ・マックスを後にした。

 

「今日改めて思ったけど、君のご主人、相当仕事ができる人だよね。そんな人がうちの会社に白羽の矢を立ててくれたなんて光栄だよ」

桜庭さんの一言で、私は嬉しくなってしまった。

「やっぱりうちの旦那さん有能なんですね!桜庭さんに誉めてもらえて嬉しいです」

「別にお前を誉めたわけじゃないだろ」と朝比奈さんが意地悪く言う。

「まあでも、ほんとにかっこいいよな。太刀打ちできるわけがなかった、か…」

「えっ、朝比奈さん何か言いました?」

「いや。なんでもない」

ごにょごにょとつぶやく朝比奈さんの最後の方の言葉はよく聞き取れなかったけど、ビジネスモードのかっこいい北斗が間近で見られたのと、生まれてくる子どもへの北斗の想いを聞けて、私はかなり上機嫌だった。

「よし、もうすぐ定時だから、みんなで食事にでも行くか」と桜庭さん。

「えっ、飲みじゃなくていいんですか?」

「だって三浦は妊婦だろ。アルコールなしの方がいいんじゃないの?」

「あっ///そうでした。妊婦の自覚がまだなくて~~~」

「もうすぐ臨月になるのに自覚なきゃダメだろー」

同僚とのこんな久しぶりのやりとりが懐かしくて、アイ・マックスに連れて来てくれた北斗に改めて感謝する私だった。

 

その夜、キングサイズのベッドにいつものように二人でくつろぎながら、私は北斗に話しかけた。

「北斗、今日はありがとね。アイ・マックスに連れて行ってくれて。

みんなと久しぶりにゆっくり話せて楽しかった」

「そうか」

新聞から目を離さずにそっけない返事をする北斗だけど、目元と声はとても優しい。

「あのね…私の仕事の話。

子ども生まれたらできるだけ母親がそばにいた方がいいっていう北斗の気持ち、私も同じだよ。

北斗と私の子どもだもん、きっと可愛くてそばを離れたくなくなっちゃうだろうし。

でも、私はそれと同じくらい北斗のそばにいたいとも思ってる。三浦北斗の妻として、今度こそ公私に渡って北斗を支えていきたいの」

新聞に目を落としたまま黙って聞いていた北斗が、新聞をサイドテーブルに置いて私の頭を肩に抱き寄せた。

「おまえの気持ちはありがたいと思ってるよ。

いつかはおまえにも仕事を手伝ってほしいと思ってる。

でも今は生まれてくる子どものことを最優先に考えろ」

「北斗…」

 「そうは言っても、おまえを子どもに譲るわけじゃないからな。千和はあくまで俺のものだ」

いたずらっぽく微笑んで、北斗は私のつむじにキスをした。

「私ね…北斗が間宮の社長だったとき、相馬さんが羨ましかったんだ」

「相馬が?」

「うん…  北斗、あの頃は休日もなく毎日夜遅くまで働いてたでしょ?

秘書の相馬さんは、そんな北斗のそばにずっといて北斗をサポートしてた。

私は家にいて、家事をしながら北斗を待つばかりで…」

「俺はお前が家で飯を作って待っててくれて、一緒に眠れたことでずいぶん助けられてたんだけどな」

「それはわかってる。でも、北斗はお母さんの死の真相をつかむために間宮のトップに立つっていう大きな目標があったでしょ。その目標のために私が役に立ってるって実感がもてなくて…」

「ふぅん」

北斗は私の言ってることが今ひとつ理解できないような気のない相槌をしたけど、私は続けた。

「何より、私より長い時間北斗のそばにいられる相馬さんが羨ましかったの」

そんなことか、と言うように、北斗はフフンと笑った。

「相馬は俺のガキの頃から間宮家でもずっと世話になってた、まあ母親代わりみたいな人だからな」

 

「ねえねえ、子育てが一段落したら、私を北斗の秘書に雇ってくれる⁉︎」

実は前からちょっと思っていたことを、思い切って北斗に言ってみた。

「お前が秘書⁉︎」

鳩が豆鉄砲くらったように北斗が目を丸くした。

「そうすれば相馬さんみたいに北斗のそばにずっといて、北斗を支えられるでしょ?」

「いや…秘書はだめだ」

呆れたように北斗が言う。

「えーっ⁉︎どうして?そりゃ、相馬さんみたいに優秀ではないけど、子育ての合間に秘書検定とか勉強するし…」

私は抱き寄せられていた頭をもたげて、やる気いっぱいの笑顔で北斗に向かい合った。

抱き寄せられていて北斗の顔ちゃんと見れなかったけど、向かい合ってみると北斗はずいぶん苦々しい顔をしている。

そんなに私をそばに置くのがイヤなの…?

「おまえさ…秘書って意外と仕事以外の大変さがあるんだぞ。

俺の取引先の人間と会う機会も多いし、接待や会食に同席することだって多い。

相馬はあの歳だが若く見えるし美人だから、相手に気に入られることも多くてな。

俺の知らないところで口説いてくる奴もずいぶん多かったらしい」

「へぇー…そうだったんだぁ。相馬さん、歳を知らなければほんと美人でモテそうだもんね」

「もっとも、亀の甲より年の劫ってやつで、相馬はうまくかわしてたみたいだけどな。

お前はうまくかわせないんじゃないかって心配になる」

北斗は気恥ずかしそうにそっぽを向いてそう言った。

想定外の北斗のヤキモチに、私は嬉しいながらも吹き出してしまった。

「あはは!北斗ってば、そんなこと心配してくれたの?

相馬さんならともかく、私を口説いてくる人なんてそうそういないよ~」

「八神といい、朝比奈といい、桜庭といい、お前意外とモテるだろ」

「えっ!?桜庭さんて何??どういうこと?」

「いや、なんでもない…と、とにかく、間宮のじじいもおまえを気に入ってるし、いつぞやの財界パーティーの時もおっさん受け良かったしな」

そっぽを向いたまましゃべる北斗の頬が少し赤くなっていて、私はその愛しい頬に軽くキスをした。

「えへへ。北斗が心配してくれるの、すごく嬉しい。

でもね、三浦北斗の奥さんを口説こうっていう人はまずいないと思うよ」

「なんだよそれ」

と言いながら、北斗は私の方を向くと唇に軽くキスしてくれた。

小鳥がついばむような、軽いキスを何度も交わす。

今日はそれ以上のことは我慢するよって言ってくれてるみたい。

ちょっと残念だけど、お腹が張ったら困るし私も我慢しなくちゃだね。

「俺そんなにコワモテか?」と戸惑う北斗がかわいい。

「怒ったときの北斗はほんとに怖いオーラが全身から出てるもん」

私がからかうと、まいったなというため息の後で、真顔になった北斗が言った。

「冗談抜きの話だが、俺が秘書を必要とするくらい業務が拡大したら、改めて相馬を雇おうと思っているんだ。彼女は本当に有能だし、俺の仕事のやり方もわかっていて頼りになる」

「そう…そうだよね!相馬さんがいたら北斗も百人力だよね!」

秘書になれないのはちょっと残念だけど、北斗のそばに相馬さんが戻ってきてくれるのは素直に嬉しい。

「お前の居場所はちゃんと考えとくから。しばらくは俺が帰る場所を守っていてくれないか。お前と子どもが笑顔でこの家で待っていてくれるだけで、俺はがんばれると思うんだ。それは奥さんにしかできない仕事だから」

「うん…北斗が幸せでいられるように、奥さんとしてがんばるね!」

その日の夜は、お腹の赤ちゃんを二人ではさむように抱き合って眠りに落ちた。 

 

(その4へ続く)

 

【はぴまり】二次小説(その2)

【重要なお知らせ】

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今後は上記のブログにて記事を書かせていただきますのでよろしくお願いいたしますm(__)m

(なお、こちらのブログで書いた過去の記事もすべて引っ越ししております)

 

 

 

(大好きなコミックス「はぴまり ~Happy Marriage!?~」(全10巻)のその後を二次小説で想像してみました。小説についての詳細はこちらをご覧ください。)


 

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その1からの続き)

間宮本家からの帰り、北斗が仕事でよく使うというホテルのカフェでお茶をすませて、私たちはつい先日引っ越したばかりの新居に帰宅した。

北斗と意見が合わなくて揉めに揉めた新居だけど、設計してくれた北斗の大学時代の先輩、山村さんの手腕のおかげで、二人の希望と夢が詰まった最高の家が出来上がった。

周りのお家の3.4軒分はあろうかという広めの敷地に建てた家だけど、北斗の希望のガレージと少し広めの庭のおかげで家屋が少し奥まり、威圧感はあまり感じない。

建物の外観も、シンプルモダンですっきりとした、それでいて資材へのこだわりが伝わる落ち着いた雰囲気で、高級感を求めていた北斗とご近所の目が気になつていた私の意見をうまく折衷してくれてある。

最初は私、イギリスの片田舎にありそうな可愛い外観の家がよかったんだけど、北斗に猛反対されて(苦笑)

でも結局二人で話し合って、デザイン重視ではなく長い年月をかけて沢山の思い出を詰め込んだ素敵な家にしようってことに落ち着いた。

だから、今となってはこういうシンプルな形の家にして良かったなって思っている。

私たちらしい味わいが年月とともに深まっていくのがとても楽しみだから…

 

2台分のガレージには、北斗の愛車のランボルギーニと、私が買い物なんかで使う国産のミニバンが停められるようになっている。

北斗はもう一台の愛車のフェラーリも並べて置きたかったみたいだけど、そのスペースに私の希望だったサンルームを作ることにしてくれた。

おかげでフェラーリは少し離れた駐車場に置くことになり、乗る機会はさらに減ってしまったけど、休日の買い物には荷物をたっぷり乗せられる国産のミニバンが大活躍!

けど、私のお腹もだいぶ大きくなってきたし、そろそろ運転は控えなきゃかな…

 

私のミニバンの隣に、ランボルギーニをミラーだけ見て器用に停める北斗に話しかけた。

「ねぇ北斗、私のお腹だいぶ大きくなってきたし、今度の買い物から北斗がミニバン運転してくれないかな?」

「は⁉︎冗談だろ。あんなダセェ車運転するくらいなら、俺が一人で買い物行ってきてやるよ」

「そんなこと言って、北斗に買い物任せたらどんな高級食材買ってきちゃうかわかんないよっ」

「美味けりゃなんでもいいだろ?

その食材を使いこなすのがお前の料理の腕の見せどころになるんだし」

「ダメダメ!美味いものばっかりじゃ栄養が偏っちゃう!

私は妊婦なんだし、お腹の赤ちゃんのためにも栄養バランスは大事なんだよっ!」

「…チッ  わかったよ。買い物は連れてってやる。ただし、行くなら俺の車で行くぞ!

沢山買った時は宅配サービス使って届けてもらえよな」

もっと言い合いになるかと思ったけど、北斗は意外と早く引き下がった。

そうそう。最近は赤ちゃんの話を出すとあまり反論できなくなるみたい。

私としては北斗の弱点を握ったみたいで面白いんだけど、それだけ私と赤ちゃんのことを大切にしようとしてくれてるのが伝わってきて同時に嬉しくなる。

だからつい赤ちゃんのこと引き合いに出して、北斗の反応を見てしまうの。

 

家に入ってすぐに私はエプロンをつけた。

「すぐに夕飯作るから待っててね」

「今日一日外出してたのに忙しく動き回ったら、またお腹張るんじゃないのか?デリバリーでも頼むか?」

「張ったらすぐに休むようにするから大丈夫!それにお父さんにもおかず届けないとだし、使い切りたい野菜もあるんだ」

「…まあ俺はおまえの手料理が食べられるならなんでもいいけど。無理はすんなよ」

「…心配してくれてありがと」

一人で暮らす私のお父さんを寂しがらせないようにと、実家の近くで土地を探して家を建ててくれた。

本当は私の作ったご飯を食べたいと思ってるのに、無理はさせないようにって気遣ってくれる。

口は悪いけど、行動から優しさがにじみ出る北斗のお嫁さんになれて、私は本当に幸せ者だ。

でも、そんな優しい北斗なのに、理さん達のことは心が痛まないのかな…

 

夕食もお風呂もすませた私たちは、パジャマ姿で広いキングサイズのベッドの上でくつろいでいる。

実家にいた頃にこの大きなベッドを買われたときにはさすがにどうしようかと思ったけれど、新居は二人の寝室を広く作ってもらったから、全然圧迫感がない。

いかにも北斗の選んだ物らしい、上質なマットレスがやみつきになってしまう気持ちよさで、私たちは二人の時間のかなり多くをこのベッドの上で過ごしている。

 

北斗はベッドのヘッドレストに背中をもたれながらサイドテーブルにビールを置いて、今朝読めなかった経済新聞に目を通している。

投げ出した北斗の長い足を膝枕に、私はマタニティ雑誌を読んで出産準備品をあれこれ眺めている。

こんなふうに静かでゆったりした時間、北斗が間宮にいた頃にはなかなか取れなかったなーーー

 

北斗は会社を本格的に立ち上げて、平日はかつての社長時代のように忙しくなったけれど、週末はなるべく仕事を入れないよう方針転換したのか、二人で過ごせる時間が多くなった。

時々は休日でなければ接触できない人物との打ち合わせや接待で出かけてしまうこともあるけれど、事務作業は自宅の事業スペースでやっているし、朝出かけたきり深夜まで顔を合わせないなんて休日はなくなった。

顔を長く合わせる分ケンカも増えた気がするけど、それ以上にこうしてのんびりできる時間が増えて幸せをかみしめてるんだ。

 

千和。おまえ今度の水曜は空いてるか?」

黙って新聞を読んでいた北斗が、思い出したように話しかけてきた。

「えっと…午前中に妊婦検診があるけど、午後は空いてるよ。なんで?」

「おまえの元職場に打ち合わせに行くことになったから、連れて行ってやろうと思って」

「えぇー‼︎  アイマックスに行くの⁉︎」

「ああ。俺の顧客で、ちょっとした販促イベントを企画したいって会社があってな。

大手の代理店より、桜庭たちの会社の方が機動力に優れているから適任なんだ」

「一緒に行きたい!桜庭さんや朝比奈さんとも会いたいもん!」

桜庭さんも、朝比奈さんも、大学時代からの先輩だけどほんとに良い人たちで、私が北斗と離婚して落ち込んでいる間も心配してくれて会社を休ませてくれた。

落ち着いたら復帰する予定だったけど、北斗の会社が軌道にのったら私もそっちを手伝うっていうことになったし、妊娠もわかってそのまま退社させてもらうことになってしまった。

不義理で申し訳ないと謝る私を、良かったな、と二人とも心から喜んで送り出してくれたんだ。

 

嬉しくなってニコニコとしている私を見る北斗の視線が急に冷ややかになった。

「おまえ、朝比奈に会えるのがそんなに嬉しいのか」

「えっ…⁉︎  そりゃ桜庭さんにも朝比奈さんにもお世話になったし、しばらく会ってないし…」

膝枕していた足を北斗が急に外すから、私の頭がバフッとベッドの上に落ちた。

「ちょっ、急になにすんの⁉︎」

口元にニヒルな笑みをたたえながら、でも決して目が笑っていない北斗が覆いかぶさるように顔を近づけてきた。

整いすぎるほど整った北斗の顔立ちに冷たい微笑みが似合いすぎて、怖いと思いながらもドキドキして目が離せない。

「元カレと会えるのがそんなに嬉しいのかって聞いてんだ」

ええっ⁉︎ 北斗、まだそんなこと気にしてたの⁉︎

「そんなわけないじゃんっ!私にも朝比奈さんにもわだかまりないの、北斗だってわかってるでしょ?」

元カレって言っても、北斗と出会うずっと前の話だし、偶然上司と部下っていう形で再開したけど、北斗への気持ちが揺らいだことなんてないのに…

「フン、どうだかな」と面白くなさそうにする北斗を見て、私はつい吹き出してしまった。

「北斗、ヤキモチやいてくれてるんだ。

かわいー…」とニヤけた私の口を北斗の唇が塞いだ。

「俺が可愛いだと?どの口がそんなこと言うんだよ」

私に罰を与えるように、乱暴に北斗の舌が入ってくる。

「お仕置きしてやる…」

お仕置きといいながら、優しくて甘い甘いキス。

「ん…っ」

優しくて甘いのに、息ができないくらい深く長く唇を塞がれる。

息苦しさと北斗が好きっていう気持ちで、鼓動がドクドクと早くなる…

 

キスに夢中になっているうちに、北斗の長い指が器用に私のパジャマのボタンを外していた。

胸元に熱を帯びた北斗の大きな手が忍び込んでくる。

「ほっ、北斗…ダメ…これ以上は…」

これ以上北斗に触れられたら、北斗が欲しくてたまらなくなる。

お腹大きくなってきたから赤ちゃんが心配だし、北斗に見られるの恥ずかしい…

「ほんとは嫌じゃないんだろ。エロい顔になってる…」

そういう北斗の顔も少し赤みを帯びた頬が色っぽい。

北斗にそんなに熱く見つめられると抗えなくなる…

北斗は私のパジャマの前をはだけさせると、大きくなったお腹の上まで引き上げていたズボンをするっと下ろした。

「や…お腹見られるの、恥ずかし…」

「こないだ抱いた時も見てるだろ。今さら…」

「だって、さらに大きくなってるもん…」

「俺らのエロい行為の結果がこの中にいるんだ。愛しくてたまんねえよ」

「生々しい言い方しないでよ///」

優しくお腹にキスする北斗。それに応えるように、お腹の赤ちゃんが動いた。

「あ、今動いた!」

「ほら、こいつもどうぞって言ってくれてんぞ」

お腹を優しく撫でてくれた北斗の手が、膨らみをなぞるように下に降りていく…

「ん…」

やめてほしくないのに、素直に反応できない。

だって、お腹の赤ちゃんがびっくりしちゃわないかな…

「優しくすれば大丈夫なんだろ。あんま深くしないで、お腹張ってきたらやめるようにすればいいって書いてあったぞ」

指と唇で優しく責め続ける北斗が耳元で囁く。

「え…書いてって…」

「おまえのいつも読んでる雑誌にだよ」

「北斗、あの雑誌いつ読んでたの⁉︎興味なさそうだったのに」

快感で朦朧となっていた意識が驚きで少し戻った。

「たまたま夫婦のお悩みQ&Aって見出しが目に入ったから読んでみたんだよ。

だっておまえ、医者にHして大丈夫か聞いてこいって言っても聞いてこないし…」

「そっ、そんなこと聞けるわけないでしょー///」

「とにかく、生まれたらそれこそ当分お預けになるんだ。今のうちにおまえを味わっておきたい…」

さっきはお仕置きだって言ってたくせに、そんな甘い声でねだられたら私だって北斗に可愛がってほしくなる。

「優しく…してね…」

「わかってる」

繊細なガラス細工に触れるように、北斗が注意深く、優しく優しく入ってくる。

「北斗…大好き」

「子ども生まれても、おまえは俺のものだからな。忘れるなよ」

優しく私を見つめる北斗の目がほんの少しサディスティックになり、動きが少しずつ早まる。

「北斗…  」

北斗に愛されている喜びを全身で感じたくて、私は北斗に抱きついたまま目を閉じた。 

 

(その3に続く)