【はぴまり】二次小説(その5)
【重要なお知らせ】
ブログ開設して早々に恐縮ですが、ブログをお引越しさせていただきます。
http://ohisama-himawari.seesaa.net/
今後は上記のブログにて記事を書かせていただきますのでよろしくお願いいたしますm(__)m
(なお、こちらのブログで書いた過去の記事もすべて引っ越ししております)
(大好きなコミックス「はぴまり ~Happy Marriage!?~」(全10巻)のその後を二次小説で想像してみました。二次小説についての詳細はこちらをご覧ください。)
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(その4からの続き)
私の妊婦生活もいよいよ臨月に突入。
安産のためにはたくさん歩いた方がいいとお医者さんから言われて、最近の私は自宅最寄り駅から二駅離れた北斗のオフィスまで愛妻弁当を歩いて届けに行っている。
「こんにちはー。」
デザイナーズマンションの一階に構えたオフィスのドアをいつもどおり開けると、
「千和さん!」と懐かしい声が耳に飛び込んできた。
「八神君!久しぶりー‼︎ 今日から出社なんだね!」
「はい!社長に一から鍛え直してもらいます。千和さんもよろしくお願いします」
にこやかな八神君の背後から、不機嫌オーラを漂わせた北斗がジロリと睨みをきかせている。
「おい、八神。ウチの奥さんのこと気安く名前で呼ぶんじゃねえよ」
「えっ…だって俺、小鳥遊さんって呼んだことしかなかったし、社長と同じ名字なのに三浦さんて呼びづらいじゃないですかー」
「じゃあ奥様とか社長夫人とか適当に呼んどけ」
あーあ、北斗ったら初日から八神君いじめちゃってるよ。
「や、八神君、気にしなくていいからね!
他の社員さんも千和さんって呼んでくれてるし」
「えっ⁉︎じゃあなんで俺だけダメなんですか??」
釈然としない様子の八神君。
北斗への当てつけで何かと言うと八神君の名前を出してた私のせいです。ハイ。
ごめんね、八神君(苦笑)
最初ここにオフィスを構えたときは北斗を含めてたった三人だったからずいぶん広く感じたけれど、北斗の間宮時代の経営手腕と人脈が評価されてどんどん顧客企業が増え、今では社員さんも10人に増えた。
八神君が入社したことで理さんの会社との契約交渉も具体的に始まるみたいで、きっと北斗はますます忙しくなるんだと思う。
もう30歳過ぎてるんだし、妻としては夫の体が心配ではあるけれど、北斗の場合は忙しくなるほど顔つきが精悍になって、振る舞いの一つ一つに無駄がなく自信が溢れ、ついうっとりと見てしまう。
まあ、たまにケンカして寝室を別にすると、よく眠れないみたいで生気のない顔になってたりするけど。
大好きな北斗をいっぱい見たくて、毎日お弁当を届けに来ているんだ。
「だいぶ忙しそうだけど、お昼ご飯はちゃんと食べてね」
パソコンに向かっている北斗の横にお弁当をそっと置いて立ち去ろうとすると、
「そうだ、千和」と、珍しく北斗に呼び止められた。
「どうかした?」
「前に話したが、間宮商事との契約も近いし、そろそろ相馬に俺の秘書として復帰してもらおうと思ってる」
「ほんと⁉︎相馬さん二つ返事で駆けつけてくれるんじゃない?」
「俺もそのつもりで、間宮のじいさんに了解もらった上で相馬に話したんだが…彼女に2ヶ月ほど待ってほしいと言われたんだよ」
いつになく歯切れの悪い北斗の言い方に、私も少し不安になる。
「2ヶ月って… 間宮の家で今何か問題抱えてるのかな?」
「いや、そうじゃなくて…
彼女、どうやらおまえの出産後しばらくの間、俺たちの身の回りの世話をするつもりみたいだ」
まいった、という表情を見せる北斗の様子から、断ったのに断り切れなかったという申し訳なさが伝わってくる。
「えぇー⁉︎ なんで相馬さんそんなに張り切ってるの?」
私が驚いて声を上げた瞬間、オフィスのドアが開き、絶妙のタイミングで相馬さん本人が入ってきた!
「まああ、奥様!ご無沙汰しております。お腹もだいぶ大きくなられて…」
大きな瞳を少しうるませながら、抱きつかんばかりに私に駆け寄ってくる。
「相馬さんっ、今北斗に聞いたんですけど…」
「それなら話が早いですわ!
奥様は出産後ひと月は水仕事をなさってはいけませんでしょう?
体を十分に休ませないと産後の肥立ちも悪くなりますし、赤ちゃんのお世話も昼夜なくありますから、とても大変かと。
北斗様も奥様も頼れるお母様がいらっしゃいませんし、僭越ながら私が母親代わりにお二人のお世話をさせていただきたいのです」
「う、あの…」
今は便利な家電も多いし、相馬さんに頼らなくても…と言いたいのに、美しい笑顔をさらに輝かせて見つめられると、そんな言葉は飲み込まざるをえなくなってしまう。
もうすぐ還暦のはずなのに、見た目はアラサーの妙齢な美人なんだもの…
同性の私でも相馬さんの輝く瞳には吸い込まれてしまいそうになる。
固まる私を知ってか知らずか、なおも相馬さんは上機嫌に話し続ける。
「実は、奥様が出産される前にご自宅のお勝手のことやらお聞きしておきたくて、先ほどご自宅を訪ねたところですの。
お留守だったので、もしかしたら北斗様のオフィスにいらっしゃるかと思い、こちらへ伺ったんです」
「いえあの、相馬さん、私なら産後でも一人でなんとかなるので…」
「奥様!遠慮されなくても大丈夫ですわ。
間宮元会長からのご指示でもありますし、北斗様の身の回りのお世話には慣れておりますから」
「おじいさまも了承済みなんですか…」
ニコニコと微笑む相馬さんを前にすると、頑なに拒む姿勢も見せられない。
相馬さんの勢いに押されまくりの私を横で見ている北斗はニヤニヤ。
(ほら、断れないだろう?)と目配せしてくる。
こりゃ私も降参するしかないなぁ。
「あ、ありがとうございます。
それじゃ、お言葉に甘えてお願いしちゃおうかな」
「はい、お任せ下さいませ!精一杯お二人をサポートさせていただきます。
奥様の入院中も、北斗様がおうちを散らかさないように見張っておりますからご安心を」
「相馬、一言余計だぞ」
他人事みたいにニヤニヤしていた北斗だったけど、自分にも火の粉がふりかかってきてちょっと不機嫌になってる(苦笑)
ウフフ、と相馬さんはいたずらっぽく微笑みながら
「奥様ご自宅へご一緒してよろしいですか?
先ほど申し上げたように、今のうちにお勝手のこと色々とお聞きしておかなくてはいけませんので」
と嬉しそうに言った。
相馬さんの車に同乗させてもらい、家に戻る。
「そういえば、男の子か女の子かはわかってらっしゃいます?
お名前はもうお二人でお決めになったんですか?」
「いえ、それが…私は検診で性別を聞いたんですけど、北斗は生まれるまで知らないでいたいって。
だから名前も生まれてから決める予定なんです。
候補は男女それぞれの名前でいくつか出したんですけど、北斗と意見が合わなくていつもケンカになっちゃって。生まれてからもすんなり決まる気がしないんですけどね~」
苦笑いする私に微笑み返す相馬さんの顔は、本当に慈愛に満ちている。
間宮家専属秘書の相馬さんに産後のお手伝いに来ていただくのは気がひけるけど、実際のところとてもありがたいお話だって思う。
北斗のことよくわかってくれてるし、私が産後あんまり動けなくても、相馬さんなら北斗も気を遣わずにすむと思うし…
北斗が間宮家を去った後まで相馬さんがこうして親切にしてくれるのも、北斗の根っこの部分の優しさを知っててくれてるからじゃないのかなーーー
「相馬さん、ほんとにありがとうございます。
私たち、もう間宮家の方々にお世話になれる立場じゃないのに…」
「そんな寂しいこと言わないでください、奥様。
お二人が間宮の家を去られる時にも申しましたが、私の中では北斗様はいつまでも間宮のお坊っちゃまなんですよ。
奥様のおかげで今はヒヨコから立派なニワトリになられましたけれども、長年お世話させていただいた坊っちゃまをこれからもお支えできるなんて、本当に幸せなことですもの。
それに、奥様のことも私は初めてお会いした時から大好きでしたの。
素直でまっすぐで、反応が可愛らしくて…。
そんなお二人のお力になれることも、お二人の赤ちゃんを間近で見られることも楽しみで仕方ありませんわ」
相馬さんの言葉には一つの偽りも混じっていないように感じられて、私はただただ感謝するしかなかった。
私たちが三浦北斗と三浦千和として再婚したとき、私たちにはお互いが好きっていう気持ちしか残っていないと思ってた。
でも違った。
人との絆はちゃんと残ってた。
今も私たちを見守ってくれている人たちは、私たちが本当の夫婦になるこれまでの過程をそばで見守ってきてくれた人たちだ。
夫婦になるってことは二人きりの世界をつくるってことじゃなくて、二人が一つになって周りとつながっていくことなんだ…
そんなことを漠然と考えていると、
「着きましたわ」
自宅のサンルームの前に、道路になるべくはみ出さないように車を横付けした相馬さんが微笑んだ。
(その6へ続く)