Eine kleine Spielzeugkiste

とりあえず、マンガのレビューや二次小説を書いていきたいと思います。

【はぴまり】二次小説(その3)

【重要なお知らせ】

ブログ開設して早々に恐縮ですが、ブログをお引越しさせていただきます。

http://ohisama-himawari.seesaa.net/

今後は上記のブログにて記事を書かせていただきますのでよろしくお願いいたしますm(__)m

(なお、こちらのブログで書いた過去の記事もすべて引っ越ししております)

 

 

 

(大好きなコミックス「はぴまり ~Happy Marriage!?~」(全10巻)のその後を二次小説で想像してみました。小説についての詳細はこちらをご覧ください。)


 

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その2からの続き)

水曜日。

病院での検診を終えた後に私は北斗と合流し、かつての職場だったイベント企画会社、アイ・マックスへと向かった。

私の短い大学生活(お父さんの借金で中退しちゃったから)でお世話になった桜庭先輩が立ち上げた会社で、私が間宮商事を退社した後に入社させてもらったんだ。

(実はその前にも一度この会社へ入ろうとしたけど北斗に強引に止められたんだっけ)

まさかその会社に、大学中退後少しだけお付き合いした朝比奈さんがいるとは思わなかったけど…

最初は別れた当時のお互いの誤解もあってしょっちゅう衝突したけれど、元々性格の良い朝比奈さんは一部下として私を鍛えてくれた。

職場唯一の女性の同僚の吉岡さんとはお互いの旦那の話をしたりして楽しかったし、ほんとに良い人たちに恵まれて仕事ができたと思ってる。

こうして、北斗の仕事の話に同席して会社に顔出せるなんて本当に嬉しい。

 

「こんにちはー」

事務所のドアを開けると、懐かしい面々の顔がそこにあった。

「あっ、まみや…じゃなかった、三浦さん久しぶり!」

「お前も来たのか〜!」

桜庭さんや朝比奈さん、吉岡さんが笑顔で駆け寄ってくれる。

「お腹だいぶ大きくなったのね〜!今何ヶ月?」

「来週から臨月に入るんです。吉岡さんは?もう安定期に入りました?」

「うん。明日で5ヶ月なんだ」

妊婦トークを繰り広げたかったけれど、後ろにいた北斗に咳払いをされてしまった。

「今日は仕事の打ち合わせで来てるんだ。雑談は俺が退出してからにしろ」

「はーい」

いそいそと会議用のテーブルにつく。

吉岡さんが北斗と私にコーヒーを用意してくれた。

「あ、三浦さん…て、ご主人も三浦さんよね。千和さんのはノンカフェインのコーヒーにしておいたわよ」

「お気遣いありがとうございます。普段あんまり気にしてないんですけどね。えへへ」

私たちの前に桜庭さんと朝比奈さんが座る。

「お仕事の話をするのは、ご主人が間宮商事の社長をされていた時以来ですね。

また一緒に仕事やらせていただけるなんて光栄です」と桜庭さん。

「いえ、あの時とは違って今は御社より小さい会社を切り盛りする立場ですから。お互いざっくばらんにいきましょう」

高級なスーツをバリッと着こなして、長身を少しだけ窮屈そうに折り曲げて座る北斗に私は思わず見とれてしまう。

その風格、どうみてもベンチャーの社長さんというより大企業の経営者だよね…

間宮商事に勤めてたときは、私こんなにかっこいい社長の元で働いてたんだなぁ。

契約結婚するまで北斗の顔さえ知らなかったけど(苦笑)

思えば、外で仕事をする北斗を間近に見たのは初めてかも。

私が北斗の会社を手伝うようになったら、毎日こんなふうに北斗の横にいられるのかな。

新居の設計でお世話になった山村さんの奥様みたいに、公私にわたって北斗をサポートできる妻になれるかな…

 

「おい、千和、体調でも悪いのか?」

うっとりと妄想にふけっていた私を体調が悪いと勘違いしたのか、北斗が心配そうに声をかけてきた。

「う、ううん!大丈夫!

やっぱりアシスタントとして働いてただけの私にはわからない話ばっかりだなーって…」

「三浦はアシスタントの枠に収まらない働きをしてくれていたよ。な、朝比奈」

桜庭さんが優しくフォローを入れてくれる。

「そうですよ。厳しい俺の指導にもしっかり耐えてくれたし、仕事も早くて確実だった」

少し照れ臭そうに朝比奈さんが褒めてくれる。

「まあ、ご主人とケンカした後なんかは、仕事が身に入らない時もあったみたいだけどな」

そ、それを言われるとほんとにお恥ずかしい…

「へぇーそいつは知らなかった」

北斗が小馬鹿にしたような目つきでジロリとにらんでくる。

そういう北斗だって、私とケンカしたときには「お前と一緒じゃないと眠れない」なんて言ってヘロヘロになってくせにっ///

 

「ほんとなら育児が一段落したら、ぜひうちの会社に復帰してほしいとこだけど、ご主人の会社を手伝う予定なんだよね?」

桜庭さん、そんな風に思ってくれてるんだ。認めてくれてて嬉しいな。

「そうなんです…」って私が答えようとしたときだった。

「いえ、その予定はありませんよ。

子どもも生まれるし、千和には当面専業主婦でいてもらうつもりです」

北斗が私の言葉を遮った。

「ええーっ⁉︎そんなの私聞いてない…っ」

思わず立ち上がってしまう私。

「だって北斗が言ったんじゃない!事業が軌道にのったら手伝ってくれって」

「それは妊娠する以前の話だろ。子どもが生まれるんだから話は別だ」

「だって…私は家だけじゃなくて仕事でも北斗をサポートしたいんだよ!北斗の役に立ちたいと思って簿記の勉強してるのに…」

「あのな、俺の仕事をサポートするっていうんなら簿記の勉強だけじゃ不十分なんだよ。おまえ経済新聞だってろくに読めないじゃねえか」

「う…そんな、人をバカ扱いしないでよ!」

「バカにバカって言って何が悪いんだ、バカ!」

「バカバカって連呼しないでよ、北斗のアホ!」

「俺のどこがアホなんだよっ!」

久しぶりにケンカがどんどんヒートアップする。

私たちのケンカを目の前に呆然とする桜庭さんと朝比奈さんが視界の端にうつるけど、そんなこと気にしてられないくらい北斗がムカつくっ!

「だって!! 北斗が間宮にいたときは、私なんにも北斗の役に立てなかった!

毎日家でご飯作ったり洗濯したり掃除したりするくらいで…

自分が歯がゆかったの。

毎日深夜まで働きづめの北斗を少しでもサポートして楽にさせてあげられたらって思ってたの。

今の北斗の会社でなら、私が勉強さえすれば役に立つことができるかもって思って頑張ってたのに…」

言いながら、涙が出てきてしまった。

北斗が深いため息を一つつき、私の頭をポンポンとなでる。

「おまえの気持ちはありがたいけど…

俺がおふくろと一緒に暮らしていたとき、おふくろは俺を食わせるために休みなく働いていた。

おふくろが死んでからは親父と暮らしたが、親父も仕事が忙しくてなかなか会う機会がなかった。

俺は自分の子どもにそんな寂しい思いをさせたくない。母親になるお前には、できるだけ子どものそばについていてやってほしいんだ」

北斗の意外な本音に、私は驚いた。

お義母さんのことはともかく、あのお義父さんと一緒に暮らしていたときにも、北斗は寂しさを抱えていたんだ…

北斗は、お義母さんを殺したのはお義父さんだと思い込んで憎むあまり、ずっとそれを自覚していなかったかもしれない。

でも、北斗は変わった。

私と結婚したことで家族の大切さをわかってくれたし、お義父さんが亡くなったことでお義父さんの北斗への愛情を知った。

だから今、子どもの頃の自分がお義父さんの愛情を求めていたことに気づくことができたんだ…

 

北斗の言葉はとても重くて、北斗の切ない思いがつまっていて、私はそれ以上反論することができなかった。

ケンカが終わったことがわかって、桜庭さんと朝比奈さんもホッと安堵の表情を浮かべている。

「ま、まあ、旦那さんの気持ちはもっともだよな。これから出産も控えてるわけだし、時間をかけて話し合えばいいんじゃないか」と朝比奈さん。

「そうですね…」と私も引き下がる。

北斗は思わず漏らしてしまった自分の本音を桜庭さんたちに聞かれて恥ずかしくなったのか、無言のままそっぽを向いている。

「じゃあ、仕事の話は終わったんで私はオフィスに戻ります。

千和はまだ時間があるだろ。皆さんの仕事に差し支えのない範囲で話をさせてもらうといい。俺の夕食は心配しなくていい」

ビジネスモードに戻った北斗は、スマートな挨拶を残しアイ・マックスを後にした。

 

「今日改めて思ったけど、君のご主人、相当仕事ができる人だよね。そんな人がうちの会社に白羽の矢を立ててくれたなんて光栄だよ」

桜庭さんの一言で、私は嬉しくなってしまった。

「やっぱりうちの旦那さん有能なんですね!桜庭さんに誉めてもらえて嬉しいです」

「別にお前を誉めたわけじゃないだろ」と朝比奈さんが意地悪く言う。

「まあでも、ほんとにかっこいいよな。太刀打ちできるわけがなかった、か…」

「えっ、朝比奈さん何か言いました?」

「いや。なんでもない」

ごにょごにょとつぶやく朝比奈さんの最後の方の言葉はよく聞き取れなかったけど、ビジネスモードのかっこいい北斗が間近で見られたのと、生まれてくる子どもへの北斗の想いを聞けて、私はかなり上機嫌だった。

「よし、もうすぐ定時だから、みんなで食事にでも行くか」と桜庭さん。

「えっ、飲みじゃなくていいんですか?」

「だって三浦は妊婦だろ。アルコールなしの方がいいんじゃないの?」

「あっ///そうでした。妊婦の自覚がまだなくて~~~」

「もうすぐ臨月になるのに自覚なきゃダメだろー」

同僚とのこんな久しぶりのやりとりが懐かしくて、アイ・マックスに連れて来てくれた北斗に改めて感謝する私だった。

 

その夜、キングサイズのベッドにいつものように二人でくつろぎながら、私は北斗に話しかけた。

「北斗、今日はありがとね。アイ・マックスに連れて行ってくれて。

みんなと久しぶりにゆっくり話せて楽しかった」

「そうか」

新聞から目を離さずにそっけない返事をする北斗だけど、目元と声はとても優しい。

「あのね…私の仕事の話。

子ども生まれたらできるだけ母親がそばにいた方がいいっていう北斗の気持ち、私も同じだよ。

北斗と私の子どもだもん、きっと可愛くてそばを離れたくなくなっちゃうだろうし。

でも、私はそれと同じくらい北斗のそばにいたいとも思ってる。三浦北斗の妻として、今度こそ公私に渡って北斗を支えていきたいの」

新聞に目を落としたまま黙って聞いていた北斗が、新聞をサイドテーブルに置いて私の頭を肩に抱き寄せた。

「おまえの気持ちはありがたいと思ってるよ。

いつかはおまえにも仕事を手伝ってほしいと思ってる。

でも今は生まれてくる子どものことを最優先に考えろ」

「北斗…」

 「そうは言っても、おまえを子どもに譲るわけじゃないからな。千和はあくまで俺のものだ」

いたずらっぽく微笑んで、北斗は私のつむじにキスをした。

「私ね…北斗が間宮の社長だったとき、相馬さんが羨ましかったんだ」

「相馬が?」

「うん…  北斗、あの頃は休日もなく毎日夜遅くまで働いてたでしょ?

秘書の相馬さんは、そんな北斗のそばにずっといて北斗をサポートしてた。

私は家にいて、家事をしながら北斗を待つばかりで…」

「俺はお前が家で飯を作って待っててくれて、一緒に眠れたことでずいぶん助けられてたんだけどな」

「それはわかってる。でも、北斗はお母さんの死の真相をつかむために間宮のトップに立つっていう大きな目標があったでしょ。その目標のために私が役に立ってるって実感がもてなくて…」

「ふぅん」

北斗は私の言ってることが今ひとつ理解できないような気のない相槌をしたけど、私は続けた。

「何より、私より長い時間北斗のそばにいられる相馬さんが羨ましかったの」

そんなことか、と言うように、北斗はフフンと笑った。

「相馬は俺のガキの頃から間宮家でもずっと世話になってた、まあ母親代わりみたいな人だからな」

 

「ねえねえ、子育てが一段落したら、私を北斗の秘書に雇ってくれる⁉︎」

実は前からちょっと思っていたことを、思い切って北斗に言ってみた。

「お前が秘書⁉︎」

鳩が豆鉄砲くらったように北斗が目を丸くした。

「そうすれば相馬さんみたいに北斗のそばにずっといて、北斗を支えられるでしょ?」

「いや…秘書はだめだ」

呆れたように北斗が言う。

「えーっ⁉︎どうして?そりゃ、相馬さんみたいに優秀ではないけど、子育ての合間に秘書検定とか勉強するし…」

私は抱き寄せられていた頭をもたげて、やる気いっぱいの笑顔で北斗に向かい合った。

抱き寄せられていて北斗の顔ちゃんと見れなかったけど、向かい合ってみると北斗はずいぶん苦々しい顔をしている。

そんなに私をそばに置くのがイヤなの…?

「おまえさ…秘書って意外と仕事以外の大変さがあるんだぞ。

俺の取引先の人間と会う機会も多いし、接待や会食に同席することだって多い。

相馬はあの歳だが若く見えるし美人だから、相手に気に入られることも多くてな。

俺の知らないところで口説いてくる奴もずいぶん多かったらしい」

「へぇー…そうだったんだぁ。相馬さん、歳を知らなければほんと美人でモテそうだもんね」

「もっとも、亀の甲より年の劫ってやつで、相馬はうまくかわしてたみたいだけどな。

お前はうまくかわせないんじゃないかって心配になる」

北斗は気恥ずかしそうにそっぽを向いてそう言った。

想定外の北斗のヤキモチに、私は嬉しいながらも吹き出してしまった。

「あはは!北斗ってば、そんなこと心配してくれたの?

相馬さんならともかく、私を口説いてくる人なんてそうそういないよ~」

「八神といい、朝比奈といい、桜庭といい、お前意外とモテるだろ」

「えっ!?桜庭さんて何??どういうこと?」

「いや、なんでもない…と、とにかく、間宮のじじいもおまえを気に入ってるし、いつぞやの財界パーティーの時もおっさん受け良かったしな」

そっぽを向いたまましゃべる北斗の頬が少し赤くなっていて、私はその愛しい頬に軽くキスをした。

「えへへ。北斗が心配してくれるの、すごく嬉しい。

でもね、三浦北斗の奥さんを口説こうっていう人はまずいないと思うよ」

「なんだよそれ」

と言いながら、北斗は私の方を向くと唇に軽くキスしてくれた。

小鳥がついばむような、軽いキスを何度も交わす。

今日はそれ以上のことは我慢するよって言ってくれてるみたい。

ちょっと残念だけど、お腹が張ったら困るし私も我慢しなくちゃだね。

「俺そんなにコワモテか?」と戸惑う北斗がかわいい。

「怒ったときの北斗はほんとに怖いオーラが全身から出てるもん」

私がからかうと、まいったなというため息の後で、真顔になった北斗が言った。

「冗談抜きの話だが、俺が秘書を必要とするくらい業務が拡大したら、改めて相馬を雇おうと思っているんだ。彼女は本当に有能だし、俺の仕事のやり方もわかっていて頼りになる」

「そう…そうだよね!相馬さんがいたら北斗も百人力だよね!」

秘書になれないのはちょっと残念だけど、北斗のそばに相馬さんが戻ってきてくれるのは素直に嬉しい。

「お前の居場所はちゃんと考えとくから。しばらくは俺が帰る場所を守っていてくれないか。お前と子どもが笑顔でこの家で待っていてくれるだけで、俺はがんばれると思うんだ。それは奥さんにしかできない仕事だから」

「うん…北斗が幸せでいられるように、奥さんとしてがんばるね!」

その日の夜は、お腹の赤ちゃんを二人ではさむように抱き合って眠りに落ちた。 

 

(その4へ続く)