Eine kleine Spielzeugkiste

とりあえず、マンガのレビューや二次小説を書いていきたいと思います。

【amazonドラマ はぴまり】あらすじ episode2

【重要なお知らせ】

ブログ開設して早々に恐縮ですが、ブログをお引越しさせていただきます。

http://ohisama-himawari.seesaa.net/

今後は上記のブログにて記事を書かせていただきますのでよろしくお願いいたしますm(__)m

(なお、こちらのブログで書いた過去の記事もすべて引っ越ししております)

 

 

 

Amazonオリジナルドラマ「はぴまり ~Happy Marriage!?~」のあらすじを小説風にまとめてみました。

全12話をがんばって書きおこしていきます!

 

はぴまり episode2「初めてのデート」

 

区役所へ出向いた北斗と千和

「お願いします」と、北斗が窓口で婚姻届を差し出す。

職員が内容を確認している間、千和が北斗を見つめるが、北斗はなんの感慨もなさそうな顔をしている。

「おめでとうございます」と言われ、千和だけが作り笑いを浮かべて頭を下げた。

 

区役所を出ると、北斗が千和の方を見た。

「…ん?」ちょっと嬉しそうに微笑む千和

見つめ返した千和に、北斗は一言「じゃあな」と残し、足早に去ろうとする。

「えっ!それだけ!?」と千和が慌てて呼び止める。

「なんにもなし!?」

「何期待してんだよ」

「あの…だから!お茶とか、デートとか…?」

期待して北斗を見つめる千和の前で、「アホらし…」と北斗がため息をついた。

「恋人同士じゃないんだから、そんなの時間の無駄だろ?」

北斗は千和を置いて歩き出す。

「時間の無駄って…」北斗の言いぐさに呆れる千和

「忘れてた」と、立ち止まった北斗が千和の方へ引き返し、「これ」と千和スマホを手渡した。

「…なに、これ」

「専用の携帯電話。俺の番号しか入ってないから、なんかあったらかけろ」

戸惑いつつも少し嬉しそうに千和が受け取ると、北斗は踵を返して去って行った。

北斗の背中を見送ると、「はぁ…」と千和はため息をついた。

自分が着てきた花柄のワンピースを見つめる。

「せっかく頑張っておしゃれしてきたのに…意味ないじゃん」

 

ーーー

今朝も質素な小鳥遊家の食卓。

「結婚式、お金持ちってさ、よく外国でやるよねぇ」

納豆をかき混ぜながら嬉しそうに千和の父がつぶやく。

時間を気にしながら、父の言葉を受け流す千和

「ハワイとか多いのかな…ハワイかぁ~!ちゃんとした服持ってないんだよねぇ~。尾びれみたいなのが付いたさ、フロックコートっていうの?あ、でもハワイなんだからアロハでもいいのかぁ」

妄想が広がる父は、こたつの中からハワイのガイドブックを取り出して広げる。

「なんか、ロコモコって料理が有名なの?お父さん知らないんだけどさぁ~プププ、ロコモコって変な名前だよなぁ…」

「何ちゃっかりガイドブックなんて買ってんの?」千和が呆れて言う。

「だって楽しみじゃない?結婚式とかさ、新婚旅行とか」

ギョッとする千和

「新婚旅行までついてくる気!?」

「いやいや、そんな気はないけどさ、でもお金持ちって気前がいいから、お父様もどうぞ~なんて言ったりするよね、わりあい」

「そんなこと言わないでしょ、普通。

とにかく、まだ何も決まってないし、この先どうなるかわかんないんだから、あんまり期待しないで。お金持ちになったつもりでギャンブルにつぎこむとか、絶っ対ダメだからね!!」

「どうなるかわからないって…もう籍も入れたんだしさぁ。そんなことないでしょ~。あっほら見て見て!ダイヤの指輪輝いてる!」

「籍は入れたけど…まだなんかいろいろ難関がありそうな気がする…」

千和はそうつぶやくと食器を片付けるために台所へ行った。

「こんなの会社にしていけないよ…」そう言いながら指輪を外すと、千和はまじまじと指輪を見つめた。

 

千和が電気店へ出勤すると、皆があわただしく動いている。

「小鳥遊さん早く手伝って!配送のトラックが事故っちゃって、倉庫から出してお店に並べないと商品が足りなくなっちゃう!」とお局の及川さん。

「はいっ!」千和も慌てて重い商品を並べ始めた。

 

いつものようにまじめに仕事をしている千和の横で、同僚の女子たちは適当に仕事をこなしている。
千和!今夜合コンあるんだけど出る?」
「えっ?」
「マナミが頑張ってくれてさぁ、今日の男子は粒ぞろいなんだって!税理士とか、弁護士とか」
「へぇー」
「この会社で何年働いても先がないしさぁ、早めにいい男ゲットして結婚しないと!緑さんみたいになるの嫌だしさ」
お局パワー全開で周囲に指示を出している及川を遠目に見て、千和も苦笑いが出てしまう。
「ね!行くよね!?」
「あ、ちょっと待って。私はいいや」
「はぁ?前は合コンっていうとノリノリだったじゃん」
「今はなんかそういうモードじゃないっていうか…どっちかっていうと仕事モードっていうか!」
今までと違う千和のノリに、同僚たちが疑いの目を向ける。
「ん~?まさか彼氏できたとかじゃないよねぇ?」
「えっ…」
「ちょっとぉ、やめてよ~あっという間に寿退社とか」
「ないないないない!それはないから!」
千和たちの会話が少し気になる様子の八神。
千和がせっせと働いていると、「働き者ですね~、千和さん」と八神が話しかけてきた。
「他の人が適当にやってるときも、千和さんは動いてる」
「ああ…同じことなら体動かしてる方が気持ちいいでしょ?」
そんな千和を見つめながら八神が微笑む。
「おもしろいなあ。千和さんて」
「おもしろい?」きょとんとする千和
「…でも、すぐに楽しようとする人より、千和さんみたいな人の方が幸せつかむ気がする」
「そぉ?」
「僕は好きです…千和さんみたいな人」
ドキッとして千和が八神を見ると、八神はじっと千和を見つめた後、ニコッと笑って立ち去った。
「みたいな人、だよね…」
八神の後ろ姿を見ながら、千和は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「あたしのこと好きって言ったんじゃないんだよね…」
千和はふと指輪を外した左手の薬指を見つめる。
「八神くん…私を誤解してるよ。私は楽するために結婚しようとしているんだから…」

「お~い!女子のみ・ん・な~!」店長が変なノリで現れた。嫌な予感がする。
「今夜だれか空いてる奴いない?」
同僚の女子たちは視線をそらす。
「私たちは今夜ちょっと約束がぁ…」
コソコソとその場を去ろうとした千和だが、そこを同僚に見つかってしまった。
千和、空いてるよね?」
逃げきれなくなった千和が「な、なんですか?」と尋ねると、店長が駆け寄ってきた。
「ちょうどいいや!スミッツホテルの社長の接待があるんだよ。あの社長、若い女の子に目がないから」
「だったら女の子のいるお店にお連れしたらいいじゃないですか」
「いやぁ、高~くつくだろ?」
「じゃあホステスがわりをやれってことですか?」
千和がつっかかると、店長が訳知り顔で近づいてきた。
「及川君から聞いたよぉ…君、夜のバイト、してたんだって?」
ドキッとして、千和は及川をうらめしそうに見る。
「きみ、今月の売り上げ、全っ然ノルマに達してないよねぇ!?その分得意分野で貢献しないと~!」
「…はい…」
「よし!はりきっていこー!」
「~~~っ はぁいっ!!」
やけくそ気味に返事をする千和なのだった。

その夜、安っぽいパブで取引先の社長が上機嫌にカラオケを歌っている。
千和と店長、及川が一生懸命盛り上げる。
「どうぞ。新しいおしぼりです」
千和が差し出すと、「気が利くねぇ~」と嬉しそうに言った社長が「ここに座りなさい!」と自分の隣に千和を呼び寄せた。
嫌がる千和に、「いけ!」とジェスチャーで命令する店長。
仕方なく「はい、じゃあお言葉に甘えて…」と千和が座ろうとすると、社長はソファの座面に自分の手をおいて、ソファに腰を下ろそうとした千和のお尻を触った。
「きゃっ!!」と千和が飛び上がった。
「あれぇ?」ととぼける社長。
千和はげんなり。


さらにはデュエットまでさせられたが、社長は千和の肩にに手を回すと必要以上に接近してくる。
我慢の限界寸前の千和を、店長と及川が必死になだめる。
嫌々歌う千和だったが、肩に回された社長の手がするすると背中を下りてお尻をなでられたとき、とうとう千和は耐えきれなくなった。
「いやぁぁぁ!!」
思わず社長を突き飛ばすと、千和は自分のリュックを抱えて店を飛び出した。
「小鳥遊君、待ちなさい!」帰ろうとする千和を追いかけてきた店長が「社長に謝りなさい!」と千和を引き止める。
「謝りません…!謝る理由ないですから!」
「謝らないと、ク、クビだぞ!!」と店長が脅す。
千和は店長を振り払って向き直り、「クビで結構です!!」と言い放った。
「そんな軽はずみなこと言っていいのか!? お前みたいなの、何の資格もないのにそう簡単に雇ってくれる会社なんかないぞ!」
あまりの言いように千和も激昂する。
「いいんです!!大丈夫なんです!私、結婚するんです!!年収5000万の人と!」
目を見張る店長たちに背中を向けると、千和はスタスタと歩き始めた。

(言ってやった…!とうとう言ってやった!!

一度言ってみたかったんだ。辞めてやるって!)


「んあー!」と叫んで、千和は勝利のガッツポーズをする。
そのまま通りを突き進む千和の目に、ブティックのショーウインドウに飾られた純白のウエディングドレスが飛び込んできた。
思わず足を止めて、ウエディングドレスに見入る千和
結婚式で自分がこの美しいドレスを身にまとい、北斗に指輪をはめてもらうシーンを思い浮かべてうっとりする。
妄想の中の北斗は千和に優しく微笑みかけ、千和も嬉しそうに微笑み返す。
沢山の人に祝福されて、幸せそうに寄り添う二人…。
妄想をふくらませていた千和はふと思う。
「そうよ…私、結婚するんだもん。結婚式を夢見て何が悪いの?」
千和はポケットから携帯を取り出すと、飾られたウエディングドレスに向けてカメラを構えた。


写真を撮っていると、突然「千和!?」と声をかけられた。
振り向くと、合コンに行っていたマナミ達がいる。
「何してんの?そんなとこで」と尋ねられて、
「そっ、そっちはどうだったの!?合コン、行ったんでしょ?」

千和は慌てて聞き返した。
「いやもう、それがハズレばっかり!一人はデブ、一人はハゲ、一人はチビのメガネのおサル顔でさ。いくら年収高くても無理でしょ」
「そうかもね~!」とごまかしながら千和が携帯を隠そうとすると、不審に思ったマナミが千和の携帯をサッと取り上げた。
ウエディングドレスの写真と、目の前に飾られたドレスを見比べてきょとんとする同僚二人。
千和、もしかして…!?」「えっ!?結婚!?」
携帯を奪い返し、「あ、あのね…!」と言いかけた千和の肩に誰かがポンと手をかけた。
振り向くと、それは北斗だった。
「あぁー!この人…!」テレビで見知っている北斗が目の前に現れて、同僚たちは呆然としている。
千和に冷ややかな視線を送る北斗を横に、千和は姿勢を正した。
「…紹介します!この人が私の…」
言いかけた千和の足を、北斗が力いっぱい踏んづけた。


「う…いっ…たぁ~いぃ…!!」
「この前君に売りつけられたライスクッカー、ちょっと調子悪いんだけど見に来てくれないか?」
「いや…そういうのはメーカーのサポートセンターに言ってよ!ていうか売りつけてないし!!」
「オフィスすぐそこだから、早く来てよ」
北斗はそう言うと千和の手をつかみ、強引に引っ張っていった。

同僚が見えなくなったところで、千和は北斗の手をふりほどいた。
「なんなんですか!」
「おまえ今、あの二人に俺と結婚してるって言おうとしただろ」
「は!?何が悪いの!?だって事実でしょーが!」
「俺は今世の中的に“独身のイケメンエリート”で売り出し中なんだよ。もう少しこの波にのって稼ぎたい。
だから、お前みたいのと結婚してるってバレたら…イメージが崩れるだろ?」
「…はあ!?」
「元キャバ嬢!借金苦!貧乏!」
「マスコミはそういうのすぐ嗅ぎつけるんだよ。」
そこまで言われてしまうと千和はぐうの音も出ない。
「…ねえ!なんで私がここにいるってわかったの!?」
はたと気がついて千和が尋ねた。
「この前渡した携帯電話、GPSがついているんだ」
「…!! げぇ~~~…」
「勝手な行動されちゃ困るんだよ。

…あ、それと、明日一日空けとけ。いろいろ予定つまってるから」
「…いろいろって?」
説明するのも面倒くさいという表情を露骨にしながら「来ればわかるよ」と北斗が言った。


---
翌朝。こたつの上で競輪新聞を熱心に見入る父親に、千和が声をかけた。
「お父さん!賭け事に使っていいお金は一日千円までだよ!わかってるよね?」
「わかってま~す…」
自分の部屋に戻り、千和はクローゼットを開ける。
先日北斗と婚姻届を出しに行ったときに着ていった花柄のワンピースを手に取り、ため息をつく。
「おしゃれなんかしたって意味ないんだよねぇ…どうせ」

結局千和はトレーナーに破けたジーンズといういで立ちで北斗を待った。
北斗の白いBMWが借家の前の砂利道を入ってきた。
シックなジャケットを羽織った北斗は、車から降りて千和の恰好に愕然とする。
「…ひどい恰好だなぁ。なんだそれ?」
「いいでしょ!デートじゃないんだから」
「……」無言の北斗に、千和は少しだけ期待を込めて尋ねる。
「それとも…デートなの?」
北斗はやれやれという顔をしながらも、わずかにほほ笑んでため息をついた。
千和の顔が期待の色に染まる。

次の瞬間。
「ちょ、ちょっと、なによ~!」
荷物を詰め込むように千和を車に押し込むと、北斗は表参道へ向かって車を走らせた。

高級ブティックの店内で、北斗は女性ものの服を次々と手にとり、千和にあてて見定めていく。
パンプスも吟味して、北斗自らが履かせてくれる。
ネックレスも、千和の後ろから北斗が手をのばし、千和のロングヘアを肩に回しながら見立ててくれる。
そんな夢のようなデートに、千和の顔はほころんだ。
見立ててもらったものをすべて身に着け、ヘアメイクやメイクもちゃんとして千和が北斗の前に現れた。
見違える美しさに、北斗も思わず立ち上がる。
「…どう?」心配そうに尋ねる千和に、北斗が優しく微笑んだ。
「よく似合ってるよ」
初めて北斗に褒められて、千和も嬉しさを隠せない。
そんな千和の横を「さあ行くぞ」とそっけなく通り抜ける北斗に少しがっかりする千和
これを着て一体どこへ行くんだろう---

二人の行先は北斗の実家、間宮邸だった。
お仕えの人に通された部屋に北斗と千和が足を踏み入れると、一族の面々がそろっていた。

北斗の叔父であり間宮家の次男、間宮理(さとる)とその妻・佐織
理の息子である間宮孝之とその妻・美佳。
同じく北斗の叔父にあたる間宮家の三男・正嗣とその妻・理恵子。
北斗の大叔母、間宮麗子。
そして、一番奥に座っているのが先日千和と会った北斗の祖父、間宮林蔵だった。
重苦しい空気が流れる中、北斗が口を開いた。
「お久しぶりです」
「座りなさい」祖父・林蔵が促した。

妾腹の北斗を親戚の連中が冷ややかに見ている空気は千和にも明らかに伝わった。

「本当に久しぶりねえ」と冷たく理恵子が言う。

「大人になったのねぇ、北斗」と麗子。

「最後に会ったのはまだ貴方が高校生のときよ。学校で色々問題起こして、お父様にずいぶんご苦労をかけてたけど」

「どこにいたんだ?今まで」と正嗣がニヤニヤしながら尋ねる。

「アメリカに留学していました。ニューヨークの大学で経営を学んだ後、M&Fカンパニーで二年間コンサルタントとして働きました。その後はワシントンのビジネススクールでMBAを取得しました」

「問題児が箔をつけるためにアメリカに留学するってのはよくある話だが、アメリカで学位を取ったところで日本で通用するとは限らない」従兄弟にあたる孝之が冷ややかな眼差しを北斗に向けた。

「北斗君は経営コンサルティングの会社をおこして日本で成功しているよ。君の名前は仲間内でよく耳にする。また会えて嬉しいよ」

叔父の理だけは北斗に温かい言葉をかけてくれた。

「そうねぇ。主人ともよく話してたの。あの北斗君が立派になったものねって」と佐織が言葉を添える。

「…どうも」北斗が軽く頭を下げた。

 

「…にしても、挨拶が少し遅いんじゃないかしら。自分勝手に家を飛び出したんだから、帰国したら真っ先に飛んできて不在を詫びるべきでしょう」と、とげのある言い方で麗子がなじる。

孝之の妻美佳は北斗と初対面になる。「家を出てからどのくらい経つんですか?」と尋ねてきた。

「15年です」

「ずいぶん長いことフラフラしてたのねぇ」と嫌味たっぷりの理恵子。

「…企業人として実績を積んでから皆さんと再会したかったので」

また冷笑まじりの空気が流れた。

「麗子叔母さん」と正嗣が語りかける。

「北斗君の立場だと、身ひとつで我々の前に現れるのは恥ずかしいんですよ。その気持ちをわかってあげないと」

「ああ、それもそうねぇ。外腹ですものねぇ」

クスクス笑い声が漏れる。千和がちらりと横を見ると、北斗は表情を変えずに黙って聞いている。

「本来ならこの席に来られるような人間じゃない」と孝之。

またしても冷笑が聞こえてくる。

「…北斗は私が呼んだんだ」林蔵がやっと口を開いた。

「そうでしたね、おじいさま。すみません」孝之が頭を下げる。

 

「隣にいる方はどなた?」美佳が再び尋ねた。

自分に視線が向けられて千和はビクッとする。

「知ってる?」「さあ、知らん」と正嗣夫妻。

「…実は、ここにいる千和と結婚することになりまして」

驚く一同。

「今日はそのお披露目もかねて参った次第です」

千和は緊張しながらも精一杯の笑顔で挨拶した。

「は、初めまして。小鳥遊…違った、千和です。よろしくお願いします」

沈黙が流れる中、林蔵が切り出した。

「この結婚を機に、北斗を一族に迎え入れる。株の半分と繊維部門の社長を任せることにした」

「なんですって!?」正嗣夫妻が慌てた。

「ちょっと待ってくださいよ!勝手に家を出てって勝手に帰ってきた男にそこまでしてやることはないでしょう!?」

「そうですよ!優遇しすぎですよ」と孝之も加勢する。

「間宮繊維は元々長男の誠嗣(せいじ)の管轄だった。北斗は誠嗣の息子だ。誠嗣は体調を崩して入院している。戻ってくるまでのつなぎにちょうどいい」と林蔵が言った。

「…父は、入院してるんですか」

自分の父親が入院していることを知らなかった様子の北斗に、千和は少し驚いた。

「そうだ。知らなかったのか?」と林蔵も驚く。

「病気ですか?なんの病気です」

「それはお前が病院に行って確かめてくればいい」との林蔵の言葉に、北斗は

「御免蒙ります」と冷たく返事をした。

「父も、私の見舞いなんて喜ばないでしょう」

「これだからもう、誠嗣さんも苦労するわねぇ。たった一人の息子がこんな態度じゃ。最低の暮らしから引き上げてもらったっていうのに!」理恵子がとげとげしく言い放った。

「そうだな。確かに」

麗子が続いて口を開く。「誠嗣がこの子を引き取りたいって言い出した時あたくしは反対したのよ。育ちが育ちだし、どうせ間宮の家には馴染めない。何せ母親があれだから…」

「あれって、どういう意味ですか?大叔母様」

「水商売の女」

「ククク…」孝之が笑いだした。

「しかし、誠嗣さんも北斗君も、二代そろって水商売がお好きなんですね」

「なんのことです」

「北斗君が結婚すると聞いて、ちょっと調べさせてもらたんですよ、お相手のこと」

俯いていた千和がハッと顔を上げる。

「そしたらつい最近まで高円寺のキャバクラにお勤めだったってことがわかりました」

「言われてみれば確かにそんな感じねぇ」麗子が嬉しそうに声をあげる。

「だったら北斗ちゃんにはお似合いなんじゃないかしら。男の人は母に似た人を求めるっていうでしょ?育った環境も似てるってことだし」

「ハハハ!血は争えないってことだねぇ」

「そうねぇ。本当に血は争えない」

罵詈雑言がヒートアップしていく。

「私、誠嗣さんはあの女に騙されてたんじゃないかと思うの。本人を前にして言いにくいけど、北斗ちゃんだってほんとに誠嗣さんの種かどうかわからないもの」

「だからあたくしも反対だったの。この間宮家に妾の産んだ子供を入れるなんて」

麗子の冷たい視線は林蔵にも向けられた。

北斗もさすがに険しい表情になる。

ずっと黙って聞いていた千和が突然立ち上がった。

「あの…さっきからなんか、話の中身がくだらなすぎるんですけど!」

千和の発言に驚いて一同が息をのむ。

「みなさん家族なんですよね?家族っていうのは助け合うもんなんじゃないんですか?」

北斗が千和のことを見上げたが、千和は構わずに続ける。

「なのに、みんなでよってたかって北斗さんの足を引っ張って…醜いっていうか…下品ですよ、これって…!

私は確かにキャバクラで働いてました。でもそのことと、彼のお母さんは関係ないんで、お母さんの悪口を言うのはやめてください!…彼の悪口も。

それに、水商売水商売って馬鹿にするけど…やりたくない仕事だって誰かのためにやらなきゃならないことだってあるんですよ!そういうの、皆さんみたいなお金持ちにはわかんないだろうけど…」

誰かのためにやらなきゃいけない…。北斗のお母さんは北斗のために。千和父親のために。

 

「…お口が達者ね!」と理恵子。

「おじいさま。この女を外に叩き出してください」と孝之。

頭にきた千和は「言われなくても外に出ます!さようなら!」とおじぎをすると、つかつかと部屋を出て行った。

千和の背中を見送ると、北斗は軽くため息をついて自分も立ち上がり、「失礼します」と後を追うように退出した。

その様子を見て、林蔵は静かに満足そうな笑みを浮かべていたーーー

 

足早に帰ろうとする千和を北斗が追いかける。

「待てよ!どこ行くんだよ」千和の腕を北斗がつかむ。

「席に戻ったら!?私は帰る!」千和は北斗の手をふりほどいて言った。

「じゃあ送ってくよ」

「電車で帰るからいい!」

北斗はそんな千和をじっと見つめる。

「あなたの家のことがよーくわかった!あの人達に認めてもらうために、あなたはあの偉そうな会長の言いなりになって私と結婚したんだよね!?

…でも私には無理だよ。世界が違いすぎる!」

それを聞いて、北斗はため息をついた。

「…今日一緒にこの服とか靴とか選んでもらったときね、…ちょっとだけ嬉しかった。うきうきした。ちょっとだけね…

男の人に服を選んでもらって、似合うねーとか言ってもらって、そういうの初めてだったから」

素直に自分の気持ちを話す千和を見つめる北斗の眼差しは優しい。

「でもそれって…私のためじゃない。

あの人達に認めてもらうために、あの人達に非難されないように、恥ずかしくない恰好で私を出すためだったんだよね!?」

「……」

「だったら私より良い人がいるよ。私にはつとまらない」

北斗の表情が曇り、そっと視線を落とす。

千和はネックレスと結婚指輪を外すと、北斗の前に差し出した。

「…服はクリーニングして返すから」

ためらいつつ北斗が千和からアクセサリーを受け取ると、千和は無言で北斗の前から去っていった。

庭に立ち尽くしたまま、北斗は返されたアクセサリーに目をやり、また一つため息をついた。

 

食卓に一人残る林蔵の元へ、麗子が歩み寄ってきた。

「北斗もとんだ娘を連れて来たものね」

「…あの娘を見て、誰かに似てると思わなかったか?」

「さあ」

「…木綿子だよ」

驚いた麗子が林蔵を見返す。

「あの娘は木綿子の孫なんだ」

「本当なの!?」

「私があの娘を北斗にすすめたんだ」

「…何を考えているの!?貴方は」

「…誠嗣をのぞいて、うちの跡継ぎは皆頼りない。北斗にも同じテーブルに着く権利を与えてやってもいいと思ったんだ。…まあ、うちの連中は黙っちゃいないだろうが。

お手並み拝見だ」

「……」

 

---

その夜の小鳥遊家。

テレビを観ながらこたつでカップラーメンをすする父。

「ただいまー」と千和の声が聞こえてきた。

千和が家に入ると、こたつの上に食べ物や日用品がちらばっていた。

「またパチンコー!?」

「今日はもうバカ当たり!5000円が35000円になったよぉ」と嬉しそうに父が言う。

「一日1000円以上使うなって言ったのに!その5000円どっから調達したのよ!?」

千和の問い詰めを無視してテレビに見入る父。

嫌な予感がして千和は部屋に駆け戻り、クローゼットを開けた。

あのお出かけ用の花柄のワンピースがなくなっているーーー

「私の勝負ワンピがない!!」

「リサイクルに持っていったら6500円だったよ」と父。

「信じらんない!!なんで勝手にそういうことすんのよ!」

父親に殴りかからんばかりに詰め寄る千和

「いいじゃなーい。細かいこと気にしない。結婚するんでしょ、千和ちゃん。

旦那さんにもっといいもの買ってもらえばいいよぉ」へらへらと笑う父を見下ろしながら、

「結婚はなくなったから」と千和が言った。

「えぇ~冗談でしょ?」

なおもへらへら笑う父。

「今日きっぱり断ってきたから!…だから明日から、ご飯はまた一食一膳ね」

「えぇ~冗談でしょ~~~」

ふと、父は千和が上品なスーツに身を包んでいることに気づいた。

「ああっ!それ、千和ちゃん、見たことない服だねぇ!高そうだねぇ」

「ダメ…この服は絶対にダメ!!」

千和父親をブロックするかのように部屋の扉を勢いよく閉めた。

 

ーーー

翌朝。トボトボと電器店に出勤した千和

気づいた同僚が「あっ、来たんだけど」と声をあげる。

きまり悪そうに千和が入っていくと、店長、及川、八神が千和を見つめる。

店長の前に来ると、「おはようございます!」と千和は深々と頭を下げた。

「あれ?あれれれ?小鳥遊君、辞めるって…」

「この前は大事な取引先のお客様を相手にお見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでした!」

千和は再び深くおじぎした。

「結婚するんじゃなかったの…?」と及川が尋ねる。

「あれは…あの場限りの、口から出まかせです」

「じゃあ、辞めるってのも出まかせってこと…?」

「…はい。本っ当に馬鹿だったと思っています」

「あのねえ…!あの後私と店長で先方に手をついて謝ったのよ!

あんな好き勝手やってタダで済むと思ってんの!?」

カウンターを叩いて及川が激昂する。

「まままま…いいじゃない!ね!?」慌てて店長が間に割って入る。

「小鳥遊君も反省しているようだし、そういうことなら引き続き頑張ってもらおうよ。ね!?」

「早速だけど、今日残業頼めるかな~!?」

千和は笑顔で「はい!頑張ります!」と答えた。

 

午後10時過ぎ。店の床を一人モップで拭く千和

「は~、終わったぁ…」

腰をぽんぽんと叩きながら家路を歩いていると、先日写真を撮ったウエディングドレスの前を通りかかった。

ライトに照らされて光り輝いているドレスを千和がじっと見つめていたら、突然照明が消えて真っ暗になった。

自分の結婚と重なり、千和はただただうつむいたーーー

 

ーーー

一方の北斗は、会社を移るための荷物の整理をしている。

ふと思い出して引き出しを開け、北斗は一枚の写真を取り出した。

そこにはサッカーボールを持った笑顔の少年と、少年の肩に手をかける母親の、仲睦まじい親子が写っていた。

北斗が写真をじっと見つめていると、

「結婚は…とりやめですか?」

女性秘書がコーヒーをそっとデスクに置いた。

「うん…」

写真を見つめる北斗の脳裏に、過去の出来事が思い出された。

走り寄る車。驚いて飛び出す母親。血を流して倒れた母親を必死で揺する幼い自分…。

母親との過去を改めて思い出した北斗の耳に、先日の千和の声がよみがえる。

”水商売水商売って馬鹿にするけど…やりたくない仕事だって誰かのためにやらなきゃならないことだってあるんですよ!”

北斗は一瞬何かを決意したような顔をした。

荷物整理を途中にして出て行こうとする北斗に

「どこに行かれるんですか?」と秘書が声をかける。

「……」

黙ってオフィスを出て行く北斗を、秘書は心配そうな表情で見送った。

 

ーーー

千和が帰宅すると、いつものように父がこたつでうたた寝をしていた。

「お父さん。言ったじゃん、こたつで寝てると風邪ひくよって」

起きない父の肩にそっと上着をかける。

「…ごめんね。また貧乏になっちゃった…でも、いいよね…?なんとか生きていけるよね…」

父の肩に頬を寄せながら千和がつぶやいた。

 

ドンドン!

扉を叩く音が聞こえた。

ハッとする千和父親も乱暴なノックの音に目を覚ます。

「ああっ…千和ちゃん!ごめん!ごめんっ!千和ちゃん…」と、うろたえる父。

「ええっ!?また!?」

 

千和がおそるおそるドアを開ける。

そこに立っていたのは北斗だった。

「ちょっといいか?」と飄々とドアの隙間から顔を出す。

「…なんですか?」と戸惑う千和

北斗が家に上がると、借金取りから隠れようとこたつに潜り込む父親がいた。

北斗がさっとひざまづく。

「…お義父様ですか?」

「…えっ!?」驚いて父親がこたつから顔を出す。

改まった態度で千和父親に向かい、北斗が丁寧に言う。

「ご挨拶が遅れまして、誠に申し訳ございませんでした」

状況が飲み込めずきょとんとする父を前に北斗が言葉を続けた。

「お嬢様を…僕にください!」

 

驚く千和

「はあ…ああっ!あなたが、年収5000万の!?」

「お父さんっ!」父親の失言を千和が慌てて遮る。

「…はい。経営コンサルティングの会社を経営している間宮北斗です」

「はぁ…そうかそうか!いいですよぉ、もちろん」

「私から結婚を断ったの!!

私は一言も…イエスなんて言ってない!!」

千和は北斗を睨みつけ、ぷいっと横を向いた。

北斗が千和の方に改めて膝を向ける。

「この前は…申し訳なかった」

これまでにない北斗の態度に、驚いて北斗を見つめる千和

「お前の言うとおり、俺の親戚は馬鹿ばっかだ。でも…俺はあの馬鹿どもを相手に闘っていかなきゃならない」

北斗は千和をまっすぐに見つめてこう言った。

「味方がほしいんだ」

「…味方?」

「お前は俺の身内の前で恥をかいてくれた。…だから俺も、恥をしのんで頭を下げる。

お願いだ…俺と結婚してくれ」

最初のプロポーズとは明らかに違う、真剣な眼差し。

自分に頭を下げる北斗を見て、千和は戸惑う。

北斗は胸元にしまったハンカチを取り出すと、千和の手を取り、ハンカチに包んであった結婚指輪を再び千和の薬指にはめた。

北斗の真剣な思いを感じ、千和は無言で指輪を受け入れた。

「おめでとぉ~!よかったねぇ、千和ちゃん」

能天気に拍手する父に、北斗が言う。

「お嬢様を、今夜お借りできますか?」

「ああ!どうぞどうぞ、連れてっちゃってくださいぃ」

父親に微笑みかけると、北斗は千和の手を取ったまま立ち上がり、千和を見つめて微笑んだ。

千和も、まっすぐな北斗の瞳を見つめ返して微笑んだ。

 

ーーー

千和の手をひき、自宅マンションへ戻った北斗。

どぎまぎする千和を見て、北斗は微笑む。

「どうぞ」

玄関を上がり、部屋に入ると北斗は照明のスイッチを入れた。

おずおずと後から入ってきた千和が、リビングを見て唖然とした。

「なにこれ…汚なっ!!」

すべてにおいてスマートなイケメン独身社長の自宅は、服やゴミが散乱する汚部屋だったのだ!

あんぐりと口を上げて立ちすくむ千和

「しょうがねえだろ、忙しいんだから…」と言い訳をする北斗。

「ま、気にすんな」

「気にするなって言われても…」

思わず片づけを始めた千和に近寄ると、北斗は後ろからぎゅっと千和を抱きしめた。

驚いて固まった千和の肩を抱いて向き合わせると、じっと見つめながら北斗は顔を近づける。

ビクッとして後ずさる千和に、北斗は笑顔で近づく。

北斗が一歩近づけば、千和が一歩後ずさる。

窓際の逃げられない場所まで追い込まれ、千和はとうとう北斗につかまえられた。

北斗の優しい瞳に引き込まれて動けない千和の唇に、北斗はゆっくり自分の唇を近づけたーーー

 

(episode3へ続く)

 

 

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円城寺マキ先生の原作コミックス「はぴまり ~Happy Marriage!?~」(全10巻)はドラマとだいぶストーリーが異なりますが、北斗と千和が本当の夫婦になるまでの過程を楽しく描いていておすすめです!

 

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