Eine kleine Spielzeugkiste

とりあえず、マンガのレビューや二次小説を書いていきたいと思います。

【amazonドラマ はぴまり】あらすじ episode1

【重要なお知らせ】

ブログ開設して早々に恐縮ですが、ブログをお引越しさせていただきます。

http://ohisama-himawari.seesaa.net/

今後は上記のブログにて記事を書かせていただきますのでよろしくお願いいたしますm(__)m

(なお、こちらのブログで書いた過去の記事もすべて引っ越ししております)

 

 

Amazonオリジナルドラマ「はぴまり ~Happy Marriage!?~」のあらすじを小説風にまとめてみました。

全12話をがんばって書きおこしていきます!

 

はぴまり episode1「突然のプロポーズ」

 

都内を貫く某道路。

黒塗りの外車の中で、スーツに身を包んだ男が後部座席にもたれかかっている。

「今日は空いてますね。あと10分ほどで到着します」

運転手が彼にそう伝える。

「ああ…」

彼は自分の腕時計に目をやると、少し気だるそうに返事をした。

 

ーーー

一方、こちらも都内某所。

「いらっしゃいませー!」明るい声が青空に響く。

「でんかのヤマグチ、今からタイムセールが始まりますよ〜!」

メガホンを片手に赤いベストを着た小鳥遊(たかなし)千和が、電気店の店頭で笑顔で呼び込みをしている。

 

ーーー

その頃、先ほどの車はとある豪邸の前に停車した。

後部座席から降りた男が屋敷の前にたたずむ。

30歳を少し過ぎたくらいだろうか。

上質なスーツが嫌味にならない端正な顔立ちに少し憂いを秘めながら、彼は意を決したように屋敷の中へ入っていった。

 

彼がドアをノックすると、「はい…」としゃがれた声で返事がきた。

「失礼します」と部屋に入ると、彼は書斎の奥に座る老人に声をかけた。

「ご無沙汰しております。北斗です」

「ああ…よく来た」

老人はかけていた眼鏡を外すと口元にわずかな笑みをたたえて彼を迎えた。

 

ーーー

その日の夜。

キャバクラで千和はいつものようにバイトをしていた。

ねちっこい客もなんとか笑顔でやり過ごし、疲れた顔で家路につく。

タクシーを拾おうとしたキャバクラの同僚が千和に気づいて声をかける。

「チワちゃん、タクシー譲ろっか?」

「あたし…  近いんで、歩いて帰ります」

「近いって…  西荻窪でしょ?」

「でも、歩けるんで!」

そう笑顔で答える千和に、同僚は冷ややかな目を向けながらタクシーに乗り込んだ。

タクシーを見送ると、千和は持っていたビニール袋からスニーカーを取り出した。

パンプスからそれに履き替えると、ネオンが明るい歓楽街を疲れた足取りで歩き出した。

 

「ただいまー」

千和西荻窪の借家に戻ると、父親がこたつに入って座ったまま居眠りをしている。

「もぉー、またこたつで寝てんの?風邪ひくよ。おーきーて!」

抱き起こした千和が、競輪新聞を見つけた。

「えっ…またギャンブル⁉︎」

嫌な予感がして、慌てて食器棚の引き出しを開ける。

「ない…‼︎

ガス代…水道代…家賃…  ない……‼︎」

「明日払おうと思ってた家賃、どうすんのよ‼︎ お父さんっ‼︎」

千和が詰め寄ると、「俺に言われてもぉ〜…」とダメ親父がバツ悪そうに言う。

「だって、使ったのお父さんでしょ⁉︎」

「でも稼ぐのは千和ちゃんでしょ〜?」

何を言ってもヘラヘラと笑うだけの父親に、千和は脱力するしかなかった。

 

翌日ーーー

「前借りもいいけど、これで最後にしてくださいよ」

キャバクラの店長から渋々と給料袋を渡され、千和は「はい!」と返事をしながら受け取った。

千和を気に入ったのか、店にはまた昨日のねちっこい客が来ている。

お給料は前借りしてしまったし、逃げたくても逃げられない状況だから仕方ない。

「よし!」と自分に気合いを入れて、千和は笑顔でホールに出ていった。

 

そんな千和を少し離れた客席からじっと見つめる男がいた。

昨日のスーツの男だった。

彼は接客する千和を観察するかのように冷めた目で見つめた後、深いため息をついた。

 

洗面所に逃げていた千和がホールに戻ると、あのねちっこい客が千和を待ち受けていた。

「チワちゅぁぁん、僕もトイレ行ってたんだ♡」

肩を抱いて千和を連れて行こうとする客の腕を、突然あのスーツの男がつかんで引き離した。

驚いて千和が振り向くと、自分を見つめる見慣れない男が立っている。

彼は無言のまま、今度は呆然とする千和の腕をつかみ強引に客席に座らせた。

「…初めての、お客様…ですよね?ご指名ですか?」

状況が飲み込めないながらも、笑顔で取り繕う千和に、その男は冷ややかに言い放った。

「お前は犬か」

「…は?」

さすがの千和も笑顔が引きつる。

「客にやりたいようにやられて、文句も言わずにホイホイついていって。

チワじゃなくて…チワワだな」

初対面の男に突然そんなことを言われたら誰だってムッとする。

「…なんですか…?」

「プライドがあるなら、こんな仕事今すぐやめろ」

無礼きわまりない男の言動に、怒りを抑えるのがやっとの千和

「あ〜、あれですか?

女の子のいるお店で、こんな仕事ためにならないからやめろとかってお説教するのがご趣味の…」

笑顔を引きつらせながら精一杯の嫌味を言う。

「そうしたいんですけどね〜

私には私の事情が…」

「事情って言っても、要は金だろ?」

「そ、そうですけど⁉︎」

すると男はスーツの胸元に手を入れて札束を取り出し、千和の目の前にポンと無造作に置いた。

「じゃ、これでどうだ。これをお前にやるって言ったら気が変わるだろ?」

傍若無人すぎる男の態度に、千和の堪忍袋の緒もさすがに切れた。

千和はすっと立ち上がると、目の前にあったグラスを手に持ち、その男の顔に水割りをぶっかけた。

びしょびょに濡れた男は黙って座っている。

「お、おい‼︎なにをやっているんだ⁉︎」

店長が慌てて駆け寄ってきた。

「すぐにお客様に謝りなさい!」

千和の怒りは収まらない。

「あたしのこと、何にも知らないくせに上からモノ言うなっ!

私にだってプライドくらいあるよ!

プライドだってあるし、守りたいものだって!」

その言葉に、男は顔を上げた。

「お前の守りたいものって…なんだ?」

突然尋ねられて、千和の頭に浮かんだのはあのダメ親父だったけれど…

「か…家族…とか?」

千和が引きつりながらも答えると、男は話は終わったとばかりに、

「何か拭くもんないかな…」と言い出した。

千和がハンドバッグから自分のハンカチを取り出して男に投げつける。

男は黙ってそれを受け取って顔を拭った。

 

ブラックカードで支払いを済ませようとする男に、店長が慌てて「お代は結構です!本当にすみませんでした!」とぺこぺこ頭を下げる。

謝りもせずぶ然と突っ立っている千和を一瞥すると、男は無言のまま店を出て行った。

当然のことながら、千和はその日でキャバクラをクビになった。

前借りしたお給料も取り上げられて。

 

翌朝。

千和は昨晩の出来事を引きずりながら、でんかのヤマグチの朝礼に出ていた。

朝礼では、店長が新しく入ってきたバイトの男の子を紹介している。

「こちら今日から入る、バイトの八神裕くん」

「目黒大学3年の八神裕です」

爽やかな笑顔の好青年に、千和の同僚の女子達は早くも目をつけたようだ。

「かわい〜♡」

「目黒大の学生ならきっといいトコ就職するし♡」

けれど、バイトをクビになった千和はそれどころではない。

仕事に打ち込む千和の横で、ディスプレイ用のテレビ画面を見ていた同僚が声を上げた。

「ね、知ってる?この人。最近よくテレビに出てるよね」

思わず千和が振り返ると、他の同僚も駆け寄ってきた。

「あー!あたしも気になってたぁ!

えと、たしか、まみや、ほ…」

「間宮北斗。アメリカで実業の勉強して、日本で経営コンサルタントの会社起こしたんだって」

テレビ画面に映った男性を見て、千和は目を丸くした。

「あぁっ…‼︎」

昨日のあの男だーーー‼︎

 

「何?その反応、千和も目つけてたの?」

「年収5000万だって。こんな人と結婚できたら人生上がりだよね〜」

(年収5000万…どうりで札束持ってるわけだーーー)

 

「あなた達何やってるの?」お局OLの及川が冷たく睨みをきかし、同僚達はこそこそと持ち場へ戻った。

「小鳥遊さん、店長が呼んでるわよ」

「あ、はい!」

千和も慌てて事務室へ向かった。

 

「失礼します」

千和が事務室へ入ると、背中を向けていた来客がこちらを振り向いた。

(あっ…!)

思わず千和が立ちすくむ。

それは紛れもなく、昨日千和が水割りをぶっかけた嫌な客、間宮北斗だった。

「小鳥遊くん、こちらヴァリアス・コンサルティングの間宮北斗さん。

君の落とし物をわざわざ届けにきてくださったんだよ〜

これ、君の?」

店長が、昨晩千和が彼に投げつけたハンカチをひらひらさせる。

あんぐり口を開けたまま、千和はゆっくり頷いた。

この男がわざわざハンカチを届けに来た意図がわからず混乱する千和だったが、慌てて彼の元へ駆け寄った。

「昨日は…申し訳ありませんでした‼︎」

千和は頭を下げた。

「お怒りはごもっともです…

昨日のクリーニング代、いえ衣装代お支払いしますので、なんとかお許しいただけないでしょうか?」

昨日の勢いとは正反対に、ひたすら低姿勢で謝る千和

「なんなの君ィ⁉︎

うちの小鳥遊が何か粗相しましたでしょうか?」

割って入る店長に、間宮北斗の方も昨日とは別人のような笑顔で答えた。

「いや、そうじゃないんですよ。

…ちょっと彼女のことお借りできますか?」

「どうぞどうぞ!」

困惑する千和だったが、結局外で間宮北斗と話をすることになった。

 

喫茶店で向かい合って座る千和と間宮北斗。

黙ってコーヒーを飲む彼に、戸惑いながら千和が話を切り出した。

「あのう…なんなんでしょうか?

会社、クビになりたくないんですよ。生活かかってますから。

お金…ないんですから…」

「知ってるよ」

コーヒーカップを置いた彼が言う。

「そうですか…」

彼の意図がわからず、どうすればいいのかわからない。

すると彼、間宮北斗は偉そうな態度で千和を見つめながら、ゆっくりと言い放った。

「俺と」

「結婚すればいい」

間宮北斗の言葉に、千和再び呆然。

「…はい?」

「俺と、結婚しろ。

そうすれば問題は全部解決する」

彼の意図がますますわからなくなる千和

「いや…いきなり、結婚っていうのもなんだけど…

それ以前に"結婚しろ"ってなんですか?  "しろ"って。

そういうときは"結婚してくれ"って言うんじゃないんですか?ふつう…」

今度は北斗の方が、わけがわからないと言わんばかりの顔をして言う。

「"してくれ"っていうのは、お願いだろ?

俺はお願いはしない。

この結婚は君にとって有利なことだらけだ。お願いする理由がない」

と、小馬鹿にしたように笑った。

「…話になんない…!」

呆れて席を立ち、店を出ようする千和の背後から北斗が声をかけた。

「昨日の店、クビになったんだろ?

今の勤め先もいつまでもつかな…」

脅しとも取れる北斗の発言に怒りを露わにして千和が振り向くと、涼やかな顔で北斗が続けた。

「あ、お父さん、借金いくらあるんだっけ?」

千和は踵を返して北斗にツカツカと詰め寄った。

「私のこと、脅してるんですか⁉︎」

「違うよ。救いの手を差し伸べているんだ」

そう言いながら、北斗は傍に置いたビジネスバッグから書類のようなものを取り出して千和に渡した。

「これ、俺の健康状態と学歴。それと、うちの会社の業績と過去5年間の収益をまとめてデータにしてある。連絡先も書いてあるから。じゃ」

まるでビジネスの打ち合わせが終わったかのように、間宮北斗は立ちすくむ千和を残して事務的に去っていった。

「なにこれ…」

 

翌朝の小鳥遊家。

お茶碗一杯のご飯ときゅうりの漬物だけの質素すぎる食卓を千和父親が囲んでいる。

「おかわり…」茶碗を差し出す父に、千和が厳しく言い放つ。

「ご飯は一食一膳。今食べたら夜ご飯なしだよ!それでもいい?」

がっかりしながら茶碗を引っ込める父。

父が最後の一枚のきゅうりを食べようと箸を出すと、同じく取ろうとした千和の箸とぶつかった。

けれども、父親思いの千和は「いいよ、食べて」と父親に譲る。

「じゃ、遠慮なく…」と、どこまでも千和に甘えるダメ親父だった。

 

出勤前、千和が銀行に立ち寄って5000円を引き出すと、預金の残高はわずか250円になっていた。

ため息をつく千和の頭に、「救いの手を差し伸べてるんだ」と言った北斗の顔が浮かんでくる。

「年収5000万か…」

昨日突然北斗から提案された結婚の申し出…。

どう考えればいいんだろう。

 

「八神く〜ん、お昼一緒に食べよ♡」

昼休みのヤマグチでは、将来有望な八神と親しくなろうと千和の同僚達が甘い声で彼を誘っている。

「僕、お弁当持ってきてるんで…」

そんなやり取りをお構いなしに弁当を食べ始める千和をチラリと見た八神が、

「ここ、いいですか?」

千和の隣に立って尋ねてきた。

千和の弁当箱には、白米に梅干し、きゅうりの漬物だけが入っている。

「…いいよ…」

お弁当を蓋で隠しながら千和が言うと、

ニコッと人懐っこく笑って席についた八神が「お腹すいた〜」といそいそと弁当を開け始めた。

千和が八神の弁当をチラッと見ると、いろんなおかずが彩りよく詰められている。

「かわいい〜!誰に作ってもらってるの?お母さん?」

「自分です。僕、一人暮らしですから」

「そうなんだぁ、すごいね!料理うまいんだね」

八神ははにかみながらアスパラガスの肉巻きを一つ箸でつまむと、

「食べてから言ってくださいよ。はい」

千和に差し出した。

「いいの?」

「どうぞ」

千和がお弁当箱の蓋を皿がわりに受け取ろうと差し出したとき、梅干しときゅうりだけのお弁当が八神にも見えてしまった。

ハッとする千和に、「シンプルですね」と微笑む八神。

「お返しに何かあげたいんだけど…何にもなくて、ごめんね」

きまり悪そうに千和が言うと、

「それ、もらってもいいですか?」

と八神はきゅうりの漬物を指して言った。

「こんなんでよかったら」

「いただきます」

きゅうりを口に運んだ八神がポリポリと噛みながら「んっ!美味しい!」と声をあげた。

「これ、自分で漬けたんですか?」

はにかみながら千和が頷く。

「へぇーすごいなぁ!家庭的なんですね」

「一応ね」

照れながら千和も八神のおかずを口に入れる。

「こっちも美味しい!ありがとう」

 

「小鳥遊さんて…名前、千和っていうんですよね」

「うん」

「可愛い名前ですね。

千和さんって呼んでもいいですか?」

「いいけど…」

嬉しそうな八神を見て、少しためらいながら千和が切り出した。

「ねえ、…お金のために結婚するのって、アリだと思う?」

「なんですか?それ。玉の輿狙ってるんですか?」

「いやいやいや!

…私ね、そんな、お金持ちになりたいとか思ったことないの。

ただ、普通の生活がしたいだけなのよ。

明日明後日のご飯の心配しないですんで、たまにはお昼休みに評判のランチ食べに行ったりできる…そういう…」

「まあ、今の時代先行き不安ですもんね。老後のこととか、不安なのわかります」

(いや、もうちょっと切羽詰まってるんだけど…)

「でも、玉の輿狙いで合コン行く女子とかどうかと思うし、千和さんは結婚は好きな人とっていうタイプでしょ?」

戸惑う千和

「…そ…そうだね…  よくわかるねぇ、八神くん」

「わかりますよぉ、なんとなく」

純粋な笑顔の八神を前に、千和はそれ以上何も言えなかった。

 

帰宅後。

「ラスイチ、いい?」

夕食のおかずのウインナーを取ろうとする父に、「いいよ」と千和は最後の1個を譲ってあげる。

「じ、じゃあおかわり…は…」

茶碗を差し出す父に「だーめ!」と言いながらも、千和は自分のお茶碗に残っていたご飯を父に差し出した。

棚の上に飾られた亡き母の写真を見つめながら千和が尋ねる。

「ねえ…お母さんは、お父さんの何が良くて結婚したのかなぁ?」

「ねぇ。なんでだろうねぇ」

「だってさぁ、お母さんの人生って、お父さんがギャンブルで作った借金返すために働いてたようなもんじゃない?

他のおばさん達みたいにお洒落したり、習い事したり…何にもなくってさ」

「それはさぁ、惚れちゃったからじゃないかなぁ」

「ガクッ。自分で言うか」

「惚れちゃうとさぁ、人は何でも許せちゃうんだよねぇ」

母の遺影を見つめながら、千和は心を決めたようだった。

 

自分の部屋に戻り、千和は昨日北斗から受け取った書類に書かれた連絡先へ電話した。

「ヴァリアス・コーポレーションです」

女性の声が聞こえてくる。

「間宮北斗ですね。…少々お待ちください」

しばらくすると、あの男の声が聞こえてきた。

「ああ君か」

「この前のプロポーズの返事ですけど…

いや、あれがプロポーズだったらってことですけど…

ノーです‼︎」

「……理由は?」

「私、やっぱり、誰かをちゃんと好きになってから結婚したいんです」

「……」

「失礼します!」

千和は電話を切った。

 

「ふられちゃいましたね」

受話器を置いた北斗に美しい女性が話しかけた。

「…君が優秀な秘書なのは認めるけど、電話の内容を全部親機で聞いてるってのはどうなのかなぁ」

女性はそんな北斗の嫌味は意に介さないといった様子だ。

「社長は女心を知らなさすぎるんですよ。恋は思案の外(ほか)、と申しますけど、ビジネスと恋は違います。

もっと有効なやり方、あるんじゃないですか?」

「……」

 

ーーー

後日。千和が会社で事務処理をしている目の前に、及川緑がドン!と段ボール箱を置いた。

「小鳥遊さん。伝票整理お願い。今・日・中・に!」

「今日中って…これ夜中までかかりますよ⁉︎」

「あなた、夜のバイトがあるからって今まで何べんも残業免除してもらってるんでしょう?これからはその分も頑張ってもらいますから」

「……」

「タイムカードは私が押しときます」

そう言うと及川は千和のタイムカードを抜き出し、退社時刻を早々に印字してしまった。

なすすべもない千和に残されたのは目の前の伝票だけ。

最終バスにも乗り遅れ、ヘトヘトになった千和はやっとのことで家に着くと倒れこんだまま眠ってしまった。

 

翌朝ーーー

千和がふと目を覚ますと、視界に見慣れない男たちが入ってきた。

どう見てもカタギとは思えない男二人が寝転がったままの千和を見下ろしながら

「へぇ~ なかなかいいタマじゃん」「ですね」などとニヤついている。

「わあぁっ!?」

千和が飛び起きると、男たちにおそれおののく父親の姿が目に入った。

「お父さん… なにこれ!?」

「そうね…オレもよくわからないんだけど…」

「バカ言ってんじゃねぇぞコノヤロー!借金踏み倒して逃げようとしたくせによぉ」

「ごめんなさい!ごめんなさい…」

普段から情けない顔をさらにくしゃくしゃにしてうろたえるだけの父。

「まあまあ。いい娘さんじゃないですか。

この娘にソープで働いてもらえれば借金なんてすぐ返せますよぉ~」

ギョッとする千和。さすがの父も目を丸くする「そ、それは…」

父親を睨みつける千和に、男が話しかける。

「お嬢ちゃんごめんな。この人な、うちの店のバカラで200万スッちゃったのよぉ」

「一日で…200万…負けたんですか?」

「あぁ~いやいやいや…ど、どうだったかなぁ~…

なんか入口のドア固められて、逃げられなくてぇ~…」しどろもどろに父が答える。

「まあ、アンタなら200万なんてあっちゅう間に返せるでしょ」

「……」

「よし!じゃあ行こうか」

「ちょっ、ちょっと待って!ねえ!手ェ放してよぉ…っ」

無理矢理連れて行かれそうになった千和が抵抗すると、男はとんでもないことを言い出した。

「そうか。じゃあ、このオッサンに保険金かけて海に沈んでもらってもいいんだけどな」

ビクッとする父。

「これ。保険の書類だ。ハンコ押しな」

無理矢理拇印を押させられそうになる父を見て、千和は激しく動揺する。

ビクビクと震えながら、千和に助けを求める視線をチラチラと送る父を見て、千和はとうとういたたまれなくなってしまった。

「…わかったよ!!」

父を睨みつける千和の瞳は、様々な感情が入り混じっているようだった。

諦めと、父へのうらめしさと、不安と…。

「聞き分けいいじゃん。行こうか」

男たちに腕を引かれ、父を睨みつけながら連れ出される千和

千和ちゃんが… …かわいそうにぃ…」とどこまでも他人事のような頼りない父は追いかけることもしない。

男たちに引きずられながら千和が振り向くと、目が合った父が慌てて借家のドアを閉めた。

「ああ~~~!! ひどい~~~っ!!」

 

男たちの車に千和が乗せられそうになったとき、1台の白いBMWが借家の前の砂利道を入ってきた。

男たちも千和も場違いな車の登場に目を奪われていると、BMWのドアが開いた。

颯爽と降りてきたのは、明るいベージュの三つ揃えスーツを着た間宮北斗だった。

 

「あっ…」声にならない声をあげて驚く千和

「なんだテメェ!?」と男がすごむが、北斗は堂々としていてひるまない。

「その娘から手を放せ」

「なんだぁ!?」

「いいから放せ」

「こいつの父親が作った借金200万、お前に払えんのか?」

「…小切手でいいか?」

北斗は男たちの間を割って、千和の前へ歩み寄った。

「助けてほしいか?」

まっすぐに千和を見つめながら尋ねる。

「えっ…?」戸惑う千和

「それって… 条件付きって、こと?」

千和の質問に答えずに北斗が言う。

「助けてほしいかって聞いているんだ」

「…… 助けて…ほしいです!」

北斗をまっすぐ見返して千和が言った。

何も言わず、北斗はわかった、という目で千和を見つめた。

 

「あんたが払うのか?」

「…保証人になっていない親族への借金返済の要求。

朝8時前、午後9時以降、夜討ち朝駆けの借金取り立て。

これらはすべて違法行為だって知ってるよな?

次この家カモにしようとしたら、警察に通報する。いいな?」

「…わかったよ!」

男たちを引き下がらせた北斗の背中を、千和が見つめる。

北斗が小切手をその場で書いて男たちに渡すと、男たちは逃げるように立ち去って行った。

 

「はい。次はこれだ」

振り返った北斗が胸のポケットから書類を出して千和に手渡す。

千和が広げて見ると、それは夫の欄に間宮北斗の名前が記入された婚姻届だった。

千和が北斗を見上げるが、北斗は顔色一つ変えず

「ほら、ここにサイン」とボールペンを手渡す。

諦めてため息をつき、千和は婚姻届に自分の名前を記入しながらつぶやいた。

「結婚で…もうちょっとロマンチックなことかと思ってた」

「残念だったな」

「…なんであたしがいいわけ!? 第六感?ビビビってきたの?

ちょっとは好きだとか、なんかいいとこあると思ったからプロポーズしたんだよね?

だったら花とか?指輪とか?なんかもうちょっとないの?」

北斗はそんな話はどうでもよいとばかりにそっぽを向いている。

「あたしに好かれようって努力が、全然見えないんですけど!」

書き終わった婚姻届を千和が差し出すと、北斗は無言でそれを受け取り、胸ポケットにしまった。

「ああ。忘れてた」

北斗は車から小さな箱を取り出してくると、千和の前でふたを開けた。

そこには大粒のダイヤモンドが輝く指輪がーーー

目を見張る千和を、「手、出して」とぶっきらぼうに北斗が促す。

千和が左手を差し出すと、薬指に北斗が指輪を通した。

ゴージャスな指輪に思わず見とれる千和

「一応恰好だけはつけとかないとな」

信じられないといった顔で北斗を見上げた千和に、彼が言った。

「会わせたい人がいる」

 

千和を乗せて、北斗の車はあの豪邸に到着した。

重厚な屋敷を見渡しながら、千和は驚きを隠せない。

「これ、あなたの家?」

「…俺が追い出された家だよ」

「…そう…」

並んで立つ二人の前の扉が開く。

使用人らしき初老の女性が「いらっしゃいませ」と丁寧にあいさつする。

北斗も、戸惑う千和も軽く会釈をして、建物の中に入っていった。

「どうぞ。こちらでございます」

屋敷の中はいかにも豪邸といった重厚感あふれるクラシックなたたずまいで、千和は圧倒されながらも北斗について階段を上がっていく。

「お着きになりました」

部屋に通されると、老人が書斎の奥に座っていた。

「すみません。急に押しかけてしまって」

北斗がそう言うと、「いや…いい暇つぶしだ」と老人は答えた。

「仰せの通り、小鳥遊千和との結婚を決めてまいりました」

驚いて北斗を見る千和

「これで私のことを間宮家の一員として迎えてくれますか」

「…えっ?」

千和には状況がまったくわからない。

老人は黙って千和の前に立つと、眼鏡をはずしてじろじろと千和を見つめた。

「なるほど… そっくりだ」

感慨深げに老人が言う。

戸惑う千和の前で、気難しそうな顔をしていた老人がぱっとにこやかになった。

「やっぱり血は争えんね。木綿子(ゆうこ)によく似ている…」

なんのことがわからず、千和は言葉も出ない。

「そうですよね」と北斗が微笑む。

「私も写真で見てそう思いました」

「木綿子って…?」

ピンとこない千和に、背中を向けた老人が語り出す。

「私が…一生をかけて愛した女性だ。それが群馬の教員ふぜいと結婚して、つまらん男とつまらん一生を終えていたとはなぁ…」

「…群馬って…あ!おばあちゃん!」

「そうだ」

「つまらん男って、おじいちゃんのこと?

…ちょっと待ってよ!うちのおじいちゃんの悪口を貴方に言われる筋合いはないんですけど」

「私と暮らしていれば、木綿子は一生、何不自由ない豊かな暮らしを送れたはずなんだ。…結ばれるのは許されない間柄だった。木綿子は私のために身を引いたんだ。ずっと探し続けたが、再会は叶わなかった」

しみじみと語っていた老人が振り向いて北斗の方を見た。

「孫の北斗と、木綿子の血筋を引き合わせる。せめてもの罪滅ぼしだ。

木綿子とはもう二度と会えないが、これで人生の帳尻はあう」

「これで約束通り、間宮ホールディングスの一部門と株の半分をお譲りいただけますね?」

約束を取り付けんとばかりに念を押す北斗の言葉に、千和はようやく状況をのみこんで改めて驚いた。

「…わかった。そうしよう」

二人のやりとりを見ながら、自分が巻き込まれたことを知り、千和は愕然とするのだった。

 

「最低!」

千和が北斗をなじる。

爽やかな初夏の公園の風が、きっちりとまとめた北斗の髪をなであげる。

「何が?」

「何がって…結局出世のための結婚ってことだよね!?」

「俺は…あの人の長男の息子なんだよ。でも…妾腹なんだよ」

千和は少し戸惑いながら北斗を見つめた。

「いずれあの家は俺のものになる。会社もな。俺が全部のっとって牛耳ってやる」

暗い決意を秘めたような北斗の言葉に、千和は何も答えられない。

「そのためにはまず、あのジジイの機嫌をとんなきゃなんないんだよ」

「ふぅ…っ」千和はため息をついた。

「そうか。なんかウラがあるとは思ってたけど…そういうこと」

「じゃ、やめるか?結婚」

あっさりと言う北斗に少し驚いて、千和は左手にはめられた指を見た。

「…」

今朝ソープに連れて行かれそうになったところに北斗が颯爽と現れてスマートに助けてくれたことを思い出す。

迷っている千和をチラリと見て、北斗が続けた。

「俺は結婚より野望が大事、おまえは結婚より生活が大事。利害は一致している。だろ?」

「…まあね」

「じゃあな」

そう言うと、北斗はうつむく千和を置いて歩き出した。

北斗の背中に向かって千和は問いかける。

「ほんとにそれだけ?おじいさんに私と結婚しろって言われたから…理由はそれだけなの?

私じゃなくて、ほかの女でもそうしてた?」

北斗は立ち止まって振り返ると千和に言った。

「初めてキャバクラで会った時、おまえ、守りたいものがあるって言ったよな?」

「…言ったけど」

「どうしても手に入れたいものがある俺と、守りたいものがあるおまえとだったら、上手くいくって思ったんだよ」

「……」

「それと…今日取り立て屋にからまれたとき、おまえは親父かばって犠牲になろうとしてたよな」

千和をまっすぐに見つめて北斗が言う。

「合格だ」

「えっ…?」

「口だけじゃないんだと思った」

北斗はもう一度「じゃあな」と言うと、今度はそのまま振り返らずに去っていった。

「合格って…なによ、偉そうに」

千和は左手から指輪を外すと、「ふんっ!」と投げ捨てようとしてみたが、投げることができない。

「まあ…もったいないよなぁ」

千和のこの一言が向けられているのは、指輪だろうか。北斗だろうかーーー

 

車に戻った北斗は、自分の野望に一歩近づいたことを実感する。

「ふぅ…っ」深く息を吐いて、まっすぐに前を見つめて車を走らせた。

 

父と暮らす借家に帰宅した千和

「ただいまー…」家に入ると、千和を見捨てた父がこたつで気持ちよさそうに寝ている。

「あんな騒ぎの後で、よくこんな気持ちよさそうに眠れるよね…」

呆れる千和の視線に気づいたのか、父が目を覚ました。

「あれ…帰ってたんだ。無事だったの」

「そうみたい」

「そう。よかったねぇ」

他人事のようにへらへら笑う父に、千和が言った。

「お父さん。私、結婚したから」

「ふうん…結婚」

本気にしていないのか、千和の結婚に興味がないのか…

「結婚して、間宮千和になりました」

「ん…いいんじゃないの?で、相手は何やってる人?」

寝返りを打ちながら、けだるそうに父が言う。

「企業経営者です。年収5000万の」

背中を向けた父ががばっと跳ね起きた。

「5000万!?」

はにかんだ千和が「じゃーん」と左手の結婚指輪を見せる。

「か、輝いてる…!まぶしい…」

驚く父を見て、千和も嬉しそうに笑った。

 

(episode2へ続く)

 

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円城寺マキ先生の原作コミックス「はぴまり ~Happy Marriage!?~」(全10巻)はドラマとだいぶストーリーが異なりますが、北斗と千和が本当の夫婦になるまでの過程を楽しく描いていておすすめです!

 

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